第五十五話 速水の食事その九
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「太宰は知らなかったのです、そして彼と森鴎外のお墓はすぐ傍にあります」
「それは私も知っています」
「左様ですか」
「太宰のお墓が鴎外のお墓の近くにあることは」
「有名ですか」
「そうだと思います」
咲もこう返した。
「文学の世界では」
「ですか。ただまことに森鴎外はです」
「そうした人だったんですね」
「何度も申し上げますが森林太郎としてはです」
「褒められた人じゃなかったんですね」
「そうでした、医師ですが多くの人を死なせたのですから」
それ故にというのだ。
「私はそう考えています」
「それで戦争にも影響したんですね」
「万単位の死者が出たのですから」
「万って凄いですね」
これには咲も眉を顰めさせた。
「それはまた」
「何万もの人が命を落としました、脚気は当時国民病でしたし」
「それだけ多かったんですか、国民病って」
「そうです、江戸腫れや大坂腫れと言われて」
「この東京でもあったんですね」
「むしろ東京では深刻な問題でした」
脚気がというのだ。
「農村では麦や雑穀のご飯を食べていましたが」
「東京では白米だったんですか」
「そればかり食べていたので」
まさにその為にというのだ。
「脚気になっていました」
「それで亡くなる人も多かったんですね」
「白米は美味しいですが多くのおかずが必要ですね」
「はい、どうしても」
「それは味の問題だけでなくです」
「栄養的にもなんですね」
「そうでして」
それでというのだ。
「昔はおかずは殆どなかったので」
「そのせいでなんですね」
「脚気も多かったのです」
「そうだったんですね」
「ですがビタミンB1麦や豚肉に多く含まれていますが」
「そうしたものを食べるとですね」
「いいのです」
速水は咲にこのことも話した。
「そうすれば、長い間そうした栄養学も知られていなかったので」
「脚気が凄く多かったんですね」
「この東京でもです」
「それは知りませんでした」
「そうでしたか、ですが」
「脚気は実際に問題だったんですね」
「国民病の一つでした」
そこまでのものだったというのだ。
「事実そうでした」
「国民病だったんですね」
「今は癌が言われますが」
「その頃は脚気がそうだったんですね」
「他には梅毒や結核がそうでした」
「梅毒もですか」
「はい、この病気で命を落とした人も多いです」
速水は正直に述べた。
「かつての日本では」
「今は助かりますよね、結核も」
「ですが当時はペニシリンなぞなかったので」
これが出たのは二十世紀も中盤になってからだ、抗生物質が出て来るまでこの梅毒や結核は猛威を振るっていたのだ。
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