第五十五話 速水の食事その八
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「まさに」
「私もちょっと」
「森鴎外がそうした人とはですね」
「夢にも思いませんでした」
咲ははっきりと答えた。
「何か好きじゃなくなりました」
「事実生前は好かれていなかったそうです」
「そうしたことがあったからですか」
「エリート意識が非常に強く」
今話している様にというのだ。
「そして出世欲や名誉欲も強く」
「何か欲が強いですね」
「今お話した通り他人の意見を認めないので」
「意固地で」
「そして異論を妨害する様なこともしたので」
「好かれていなかったんですか」
「そうでした」
生前そうであったというのだ。
「卑しいともです」
「その性格がですか」
「言われていた様ですね」
「高潔な人と思ったら」
「自分ではそう思っていて思われたかった様ですが」
それでもというのだ。
「その実はです」
「そうした人で」
「好かれていなかったどころか」
「嫌われていたんですか」
「文壇では兎も角そこを離れると」
森鴎外ではなく森林太郎としてはというのだ。
「しかも今で言うとファザコンでマザコンでした」
「ご両親に頭が上がらなかったんですね」
「お子さん達に無理にドイツ風の名前を付けていますし」
漢字を当てはめてだ。
「今で言うキラキラネームのはしりでもありました」
「何か悪い要素ばかりですね」
「夏目漱石も被害妄想で暴力癖がありました」
細君や自身の子供にこの時代でもかなりの暴力を振るったという記録がある。
「今ではDVとしてスキャンダルでした」
「漱石の話は聞いてますけれど」
咲もだった。
「その漱石よりもですか」
「鴎外は評判は悪かったのです」
「そうでしたか」
「少なくとも森鴎外を見ているだけではわかりません」
「森林太郎を見ないとですね」
「わからないのです、太宰治もわかりませんでした」
彼もというのだ。
「太宰は芥川を終生敬愛し鴎外もでしたが」
「森林太郎は知らなかったんですか」
「そうだったのです」
「何か色々意外ですね」
「太宰は人間観察も優れていました」
そして自分が他人にどう思われているかということを非常に気にしていたという。
「しかし森鴎外だけを見て」
「森林太郎は知らなかったんですね」
「当時知っている人は知っていましたが」
「知らない人はですか」
「太宰は彼の後の時代の人で」
森鴎外即ち森林太郎のだ。
「昭和の人でしたね」
「それでお医者さんとしてのあの人を知らなかったんですね」
「しかも政治や軍隊に関わったこともないです」
二次大戦も結核を患っていたので従軍しなかったのだ。
「ですから」
「森林太郎という人を知る機会はなかったんですね」
「太宰は偽善を嫌ったので森林太郎を知れば」
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