第三部 1979年
孤独な戦い
姿を現す闇の主 その1
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しかないだろう」
そう話す、男の後ろには、銃身や槍の穂先が林立していた。
「このどさくさに紛れて、モルディブから逃げ出すつもりだろう。
それが早まったと思えばいいだろうに……
あんたには、メリットのある話だぜ」
「う……」
「この話を飲めば、あんたの命は奪わない。
だが断れば……」
さっと、形相を変えるやいな、上衣の下からピストルを取り出して、
「こうだ!」
鎧衣の顔面に突きつける。
黒い革手袋から引き金を引き絞る、かすかな音が聞こえた。
「本気だぜッ!覚悟を決めな」
「むむむ……」
要求を、聞き入れるか、入れないか。
鎧衣の肚としては、実は、敵兵に囲まれる最中で、既に決まっていたのである。
いいかえれば。
肚を決めかねて、SASR大佐と問答をしたわけでなく、肚をきめた。
なので、どうだろうと、一応、問答にかけてみたのである。
そこにも、彼の腹芸があった。
もし、SASR大佐の要求を受け入れてやらないと、どうなるか。
人質として預かっているソ連将校の立場は、非常にまずいものになる。
また、いきり立っている工作員たちの興奮は、ここで抑えても、ほかの場合で、何かの形をとって、復讐という形であらわれるにちがいない。
それは、外交上の、大きな危険だ。
いや、それ以上にも、鎧衣がおそれたのは、SASR大佐に、不平をいだかせておくことであった。
放置しておけば、彼の背後にいる、老獪な英国王が、必ず手を回して来るに違いない。
そう、思われることだった。
「……」
多くの小さな鋭い音が一度に起こった。
それは、支那製の63式自動歩槍(小銃)を構える音だった。
「わ、わかった」
「よろしい!」
と同時に、銃をおろす音が聞こえた。
「では連れていけ」
「はいッ!」
そうして、グルジア人の大尉とラトロワは、近くに止めてあったワゴン車に乗せられる。
そのまま、いずこへと連れ去らわれていった。
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