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冥王来訪
第三部 1979年
孤独な戦い
姿を現す闇の主 その1
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件のアラブ装束の男たちは、ビジネスマンや観光客ではない。
 おそらく、テロリスト、あるいは工作員。
長いローブの下には、ウージやスターリングと言った短機関銃が隠してある。
「旦那、武器は……」
「刃渡り30センチのボウイナイフと、イングラムM11だけだ」
 イングラムM11は、ベトナム戦争で活躍した、M10短機関銃の小型版である。
おもにカンボジア戦線やラオスなど、南ベトナムから奥地の補給が難しい場所で使われた高性能の短機関銃(サブマシンガン)。 
特別な消音器具(サイレンサーキット)を使えば、静粛性に優れた暗殺用の武器であった。
「白銀君、君の道具は」
「シャツの下にブローニングのピストルが、一丁入っています」
「そうか」


 アラブ人の男たちは、咄嗟にトープを脱ぎ去る。
長い衣の下に着ていたのは、タイガーストラップの迷彩服で、胸掛け式の弾薬納を付けていた。
 見ると、銃剣の密集したひらめきが、鎧衣たちに押し寄せていた。
つづいて、銃口を向けかえて、一閃(いっせん)の光を浴びせかける。
「うわあぁ」
 ドドドッと、銃弾のひびきがすさまじい音が聞こえる。
 鎧衣は、咄嗟に、手にもっておいた鞄の蓋を開いた。
彼の持っていたのは、アタッシェケース型の折り畳み式の防弾シールドであった。
「伏せろ!」
 危機一髪だった。
洪水の際、河水が堤防のすき間からあふれはじめるのと同じ、恐るべき瞬間だった。
もう一秒、(おく)れていたら、命は奪われていたに違いない。
「鎧衣左近、動くなっ」
 とたんに、大喝と共に、彼の眼にとびこんで来たのは、迷彩服姿の白人。
鎧衣には、見覚えのあるの男だった。
「何、貴様はッ」
 自分の記憶が確かならば、男はオーストラリアの精鋭部隊、特殊空挺連隊(SASR)の大佐。
1966年からベトナム戦争介入や、カンボジア戦線での作戦に関係した人物であった。
「大人しくしていれば殺しはしない。あきらめろ」
「たわけた雑言を……」 
「それこそ、世迷い言よ。
あんたの命はいらない……一緒にいるソ連人の男女をいただきたい」
「な、何の事だ」
「とぼけても無駄だ。
あんたが連れているのは日本政府が人質にしているソ連赤軍の将校……
そんなことは、モルディブにいるスパイ関係者なら誰でも知っていることだぜ」
「ソ連赤軍の将校を手に入れて、どうする。
君が代わりにソ連に送り返してくれるのか」
「人質にして、ソ連政府に渡すのさ。
かなりの額を払ってくれるはずだ」
 鎧衣は、眉をひそめて、なお凝視し続けていた。
解せぬと思ったのは、余りにも、彼の予感があたり過ぎていた為であった。
「あんたは、そこの工作員の坊やと日本に帰ればいい。
ゼオライマーのパイロットの面倒も、見る
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