暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
孤独な戦い
姿を現す闇の主 その1
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
部に、精鋭の第50独立空挺旅団の派遣要請を行った。
 だが、インド軍は即座に動かなかった。
同日、西ベンガル州で毛沢東主義者の反乱があったためである。
持てる空挺戦力のほとんどをカルカッタに投入し、予備の部隊をパキスタン方面に温存していた。
 またモルディブまでは、インドのアグラ空軍基地から、2000キロメートル以上離れていたことも大きい。
航空機を使っても、高速の駆逐艦を使っても12時間以上かかってしまう。
 これがモルディブ大統領府からであったのならば、違ったであろう。
ラダビノット少佐の電報は、インド軍司令部で放置されることとなってしまった。


 その頃、鎧衣と白銀はマレ島の市街を、一組の男女と散策していた。
彼らが連れて歩ている男女は、ソ連人将校の二人で、グルジア人大尉とラトロワであった。
 大尉は、薄いカーキ色の熱帯武官服ではなく、観光客らしい服装に着替えていた。
白の開襟シャツ姿で、薄手の長ズボンの後ろポケットに、小型拳銃と軍用ナイフを忍ばせていた。
 またラトロワの方も、南インドで広く着られている民族衣装のパンジャビをまとっていた。
有名な民族衣装サリーは、ヒンズー教徒や仏教徒の衣装であった。
 12世紀に来訪したアラブ人によってイスラム化したモルディブでは一般的ではなかった。
またサリーは5メートルの布地を全身に巻き付ける為、ラトロワには着こなせる技術がなかった。
 ガウミリバースと呼ばれる民族衣装や、回教圏らしいヒジャブ(スカーフの一種)に長袖の服装は、ロシア人の彼女には暑苦しく思えた。
本当は胸元の空いた半袖の開襟シャツに、半ズボンという服装をしたかったのだが、警察とのトラブルに巻き込まれる可能性が大だった。
故に、比較的おとなしい印象のパンジャビ・ドレスを着ていたのだ。
 市中にある、サルタン宮殿公園を散策している折である。
鎧衣の目に、怪しげなアラブ人の一団が目に留まった。
 モルディブは、古代から南インドとアラブ世界をつなぐ位置にあったため、アラブ人が多かった。
だが銃火器の持ち込みが禁止されている同国であって、大型武器を隠し持てるようなトープと呼ばれる足首まである長い白装束。
そして、揃いに揃えた様に、赤白の千鳥格子頭巾(シュマッグ)姿は、余りにも奇異だった。
 これは、何かが起きる前兆ではないか。 
そう考えた彼は、ラトロワたちにモルディブの歴史を説明していた白銀に注意を投げかけた。
「白銀君、あのアラブ人の服装をした連中は奇妙だと思わないか」
「旦那もそう思われますか」
「いくら敬虔なアラブ人のビジネスマンでも、常夏の国でトープを着る義務はない。
それに彼らの履いていた物はサンダルではなくて、黒い布製のジャングルブーツだ」
 その言葉を聞いた瞬間、白銀は理解した
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ