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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第67話 燃やされるモノ
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でいる故に、一〇年後、ゴールデンバウム王朝が滅びるかもしれないなどと准将も考えられないに違いない。

 だからこそ物語のファンの転生者としては、聞いてみたいこともある。

「閣下は平民のご出身と伺いましたが、現在の――ゴールデンバウム王朝についてはどう、思われますか?」

 准将の引き締まった身が、僅かにこわばったように見える。表情はそれほど変わらないが、努めて平静になろうという意思が、思慮深かった准将の瞳の奥で震えている。
 沈黙は秒の単位だったろうが、一時間にも感じられる雰囲気を先に破ったのは、やはり准将だった。

「私は軍部と故郷以外に帝国を知らない。王朝の是非を語るなど、やはり私には過ぎたことだよ」
 
 五世紀にわたる寡頭政治が、平民層の政治思考能力を薄くしたり放棄させたりしているということではない。どっかの誰かみたいな特別な人間でのない限りこれが普通だ。例え捕虜となって帝国の支配層から抜けたとしても発言は慎重に。准将の言葉の裏に俺はそれを感じ取った。沈黙で応える俺に対して、准将はキツネというイメージ通りの冷たさと皮肉っぽさと後悔を綯交ぜにした笑みを浮かべて言った。

「不満がないとは言わんが、それを卿や貴国に利用されたくはないのでね。もう一つだけ階級が上がれば、功労年金も出て故郷の畑をもう少しばかり広げることができたところを、卿の奸計でふいにしてしまった私の怨嗟を甘んじて受けてもらいたい」
「……それは甘んじてお受けいたします。ちなみに故郷の畑では、何をお作りになっているんです?」
 その質問に准将の表情は豊かな方に一変したが、俺は流れで質問したことを、猛烈に後悔することになった。
「製パン用の硬質小麦が中心だな。他にもイロイロ作っているが、やはりヴェスターラントと言えば辺境のパン籠と呼ばれている場所だからな」

 それからどうやって装甲降下艇の席に戻ったか、俺にははっきりとした記憶がなかった。気が付いた時には隣に座っていたジャワフ少佐曰く、ごく普通に准将と敬礼を交わし握手していましたよと、逆に不審がられた。これは記憶がないなどとは言わない方がいいと思い、黙って窓から見える『ボーデヴィヒ要塞』を見下ろした。

 准将達はこれから捕虜交換が行われるまで、故郷から切り離されて敵地で暮らすことになる。エコニアのように捕虜の待遇には政府もそれなりに気を使っている。脱走とか叛乱とかしなければ、まず命は保障されるだろう。『要塞が燃やされる』ことで『集団としての彼ら』は勇敢に戦い戦死した、となる。帝国側がわざわざ捕虜になった場所を調査することがない限り、家族にも掣肘が及ばないようにしたつもりだ。
 だが仮に一〇年後。いや、あの金髪の孺子が軍内部の実権を握った九年後の捕虜大規模交換時に、故郷が燃やされるとなれば、どうだろ
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