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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第67話 燃やされるモノ
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 宇宙歴七八九年 五月一九日 エル=ファシル星域エル=ファシル星系 惑星エル=ファシル地上

 俺の立場は作戦前の四月二三日まで戻った。惑星エル=ファシルにいる帝国軍が敵対勢力から捕虜になっただけで、配置も何もかもが変わっていない、はずだった。

「どうです、ボロディン少佐。地上軍の野戦築城ってなかなかのものでしょう?」
「……」

 してやったり、といった表情のジャワフ少佐と、テラフォーミング後の植生が未発達の山脈中腹に突如現れた、『帝国ブルーで染められた地上要塞』を上空から突入装甲降下艇から見て呆然とする俺。

 霧作戦の前に、地上軍司令部が帝国軍の配置を再確認する為と言って、地上観測衛星から送られてくるデータとエル=ファシル行政府の地籍データを突き合わしていたのと、ジャワフ少佐が見識後学の為と帝国軍の戦艦と巡航艦のデータを欲しいと言っていたのはこの為だったのか。

 俺が宇宙でレッペンシュテット准将に睨まれている頃、エル=ファシル軌道上空から退避していた対地攻撃用強襲艇や軌道展開型大気圏内戦闘機が、再突入して山脈中腹に精密爆撃を行い、四隻の戦艦と一二隻の巡航艦を環状に大地へ『埋め込む』穴を掘っていたのだ。勿論地上軍では戦艦や巡航艦の大気圏降下や精密着陸など無理なので、フィンク中佐達も協力したんだろう。俺に黙って。

「半径一二〇〇メートルの環状地上要塞。通称『ボーデヴィヒ要塞』です。四隅は戦艦、間を三隻の巡航艦で埋めてます。大気圏内なので主砲は使えませんが、舷側砲は使用可能。中央部の半径三〇〇メートルの空間にはワルキューレの発着場を設置します」
「まずはそのネーミングからどうにかなりませんか。ジャワフ少佐」
「地上軍でも捕虜の間でも絶賛されてますよ。孤立無援の地上軍を救いに、僅かな艦隊を率いて優勢な同盟軍に戦いを挑んだ英雄の名前だそうです」
「ディディエ少将とか、絶対楽しんでますよね」
「まぁ燃やすために作ってますからなぁ」

 ジャワフ少佐の言葉に俺は驚いて首を廻して彼の顔を見たが、同時に納得もした。作戦を指導し四万人の捕虜を無傷で手に入れたとはいえ、宇宙軍に協力を仰いだのは間違いない事実だ。今後の人事考査において功績泥棒と後で揶揄される可能性もある。

 それに捕虜の『帝国に対する』アリバイ作りという理由もある。状況を了解の上、覚悟して降伏したレッペンシュテット准将はともかく、帝国は捕虜になった将兵の家族を干すようなことすらする母国に対して『エル=ファシルの地上軍も抵抗したが、多勢に無勢で敗北した』とフェザーンを通じて宣伝したいというディディエ少将の優しさがあるのかもしれない。まさに勝者の余裕というべきか。

 即席要塞の中央に到着した降下艇から地上に降りた俺は、改めてそのデカさに目を見張った。み
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