第二章:空に手を伸ばすこと その四
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した剣は風を勢い良く切りながら迫るが、胴体に刺さる前に血脂が刃全体に広がった双手剣により弾かれる。
波才は残った剣を右上段に構えると仁ノ助に向かって走っていく。飛び掛る火の粉は自分で振り払うために彼は疾走し、両手で柄を掴みながら得物の距離に入った仁ノ助に向かって勢い任せに振るう。波才自身が知らぬことに生命の危機に瀕した彼は人生で最も冴えた一撃を繰り出していたのだ。
しかしそれを嘲笑うかのようにクレイモアの刃先でそれを防いだ仁ノ助は、向かってきた波才の体の右後ろに向かって地を飛ぶ。敵兵が突然視界から消えた波才は口を開けて唖然とする。しかしその一瞬の唖然により背中ががら空きとなり剣を持つ力を緩めてしまった。
跳躍した仁ノ助は波才の右肩と首の間からから左胸に向かって呉鉤を真っ直ぐに刺した。そして素早くそれを引きながら、抵抗が弱まった剣を弾いてクレイモアを返し、波才の首に向かって走らせる。力が抜けた波才の剣は首に迫りくるそれを止める手段を持ち合わせていない。
振られたクレイモアによって肉が裂けて骨を絶ち斬られ、途中で途切れた頚動脈と静脈から赤と黒の噴水が吹いて鉄の臭いが増した。飛んでいった首は回転しながら宙を舞っていき、仁ノ助は上から落ちてくるそれを器用な事に呉鉤の刃尖にぶすりと刺す。
乱戦となって辺りから沸いて出て来る賊の攻撃をひらりとかわし、左手に持つクレイモアでその賊を威圧するように体の動脈が通る辺りを狙い振るう。未だ鈍りを生じない刃先が賊の体を裂き血が噴出する。思わぬくらいの血液が溢れ出すことに悲鳴をあげる賊を掻き分けて、仁ノ助は主を無くしてぽつりと佇む馬を見つける。その鞍に乗ってすぐさまに鞭を入れると、呉鉤に刺した男の頸を高々と上げて叫んだ。
「敵将波才、討ち取ったりぃぃぃいいいいい!!!!!」
「やはりこうなるか・・・」
あれから黄巾賊は総崩れとなった。首領を討ち取られた彼らを指揮する代替わりは存在せず、勇気あるものが代わりを務めようとするも曹操軍から連合軍から刺し込まれる刃の数々、飛来する矢の数々に寄って次々と命を落としていった。曹操軍と連合軍はさらに戦果をあげんと追撃の手を苛烈なものとし、結果的に首級数万が地に倒れ伏すこととなったのだ。
その惨状を見渡しが良い崖から眺めていた黒ずくめの男は、先ほど波才と話したときの飄々とした口調を消して呟く。これがこの男の素であり波才に対してのはただの一時の戯れだったのだろう。冷ややかに現実を見つめ直す男は見飽きたものを見る暇が無いのか、馬を返して鞭を打った。
(これで乱の趨勢は決まったも同然、後は如何にして三人を逃がすかだ・・・)
ここで散った数万の元農民の命など初めから興味など無かったのか、彼は自らが寄せる広宋にいる三人の主を考え始
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