第二章:空に手を伸ばすこと その四
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るい、鮮血で悲鳴を飲み込ませた。
(ほんとっ、信じられない勢いだよ、あの女性|《ひと》は!)
右に左に得物を振るって賊の半身をただの挽肉にしながら夏候惇は勢いを止めずに直進する。不運にも立ちはだかる人の群れを踏み潰し斬り倒して進む姿は、猛将の名に恥じないものである。視界の端にそれを度々入れながら仁ノ助はひたすらに馬を駆けていった。賊の貧弱な、またはそれなりに鍛えられた筋肉を断ち切ることは容易であったが、
何分賊兵のその数と、視界の前から勢い良く飛んでくる血飛沫と肉、そして脳みそを零しながら半分に分解した頭部が飛ばしてくる、馬鹿力の猛将にうんざりとする。
だが抵抗を試みる者も賊軍にはいるため、横から急に飛び出してくる槍や剣が馬の体に当たらないように手綱を操り、右手でクレイモアを振るい続ける。しかしそれでも馬に掠り傷が小さな刺し傷が徐々につき始めていることは変わりない。心臓が破れんばかりに息を荒げる馬は直ぐにでも死んでしまいそうな勢いだ。
それに決定打を決めようと、遂にやけくそに投擲された剣が彼の馬に深く刺さった。痛みで絶叫しながら横に倒れる馬の手綱を無意識に放し、仁ノ助は素早く鞍につけた呉鉤を攫う。回転しながら受身を取った仁ノ助の前に青筋を立てて槍を構えて突っ込む賊が現れる。こちらを運の無い将軍の一人と捉えたのか怒りを滾らせて狂声を挙げながら槍を突き出した。
仁ノ助は突き出された槍の穂先の近くを反射的に掴むと、クレイモアを振るって槍を半ばから両断した。自らの得物を潰された賊は驚愕の表情をたたえて、次いで返す刃で頭部を横から振るわれて鼻から上の表情を地面に落とした。
(クソ、早く賊の馬を奪わんと・・・・・・っ!)
勢いのままに進む曹操騎兵隊に目を遣って、それに合流しようと馬を持つ賊兵を暗闇を焦がす大地から探そうとした時、半町|《≒55メートル》もしない所に一人だけ賊軍にしては豪華な衣装に身を包んだ男が馬に乗ろうとしているのと見付けた。
それを見た瞬間仁ノ助は敵軍の先頭を行く物は将軍の囮ではないかと直感する。クレイモアと呉鉤をいっぺんに左手で持ち、外套の内側に括りつけた投げナイフを一本抜く。助走をつけてそれを投げながらあてずっぽうにその者に呼びかける。
「おい波才!!!!!!」
「っ!?!?!?」
鞍に腰掛けた男が勢い良くこちらを振り返った時、力強く投げられたナイフが馬の後ろ足を一本断ち切った。突然無くなった平衡感に驚いた馬が横倒しに崩れて波才が地面に投げ出された。それに止めを刺そうと仁ノ助が呉鉤を右手に持って疾走した。
波才が自分に迫りくる二本の剣に目をやると、足元の地面に落ちている二本の剣をむんずと左手で掴んで素早く立ち上がり、片方の剣の柄を右手で持ちながら仁ノ助の胴体に向かって投擲する。飛来
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