第二章:空に手を伸ばすこと その四
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態が明白となる。陣地のあちこちから燃え滾る炎が地を舐めて這っており、天へと灰色の煙が何十もの筋を出して上がっている。その炎の中から逃げ出そうと、何万もの黒い影があちらこちらへと右往左往している。
皇甫嵩立案で朱儁実行の火計は見事に炸裂したのである。その結果惹起されたのは賊軍が混乱の極みに陥り、包囲された連合軍は士気が轟々と高まって反撃の一撃を痛烈に決めた事だ。あの調子では官軍により数千以上の首級があがることだろう。
哀れ勢いが強まる炎に焼かれ、悲鳴を高らかと大地に響かせる一般賊兵とは対照的に、賊軍本陣から組織的に一つの方向へと伸びていく列があった。三十六計逃ぐるに如かずとばかりに火の手魔の手から逃れようと一心に駆けていくその人の列は、考える暇がなく立ち往生している賊と比較すると不自然であった。
「みたところアレの先頭に敵将と見たほうが良さそうです、将軍!」
曹仁が顔に戦意をたたえて大きく声を出す。戟を握る力が強くこめられているのが肩の緊張から分かった。地を素早く駆ける馬にさらに鞭を入れるが如く、夏候惇が自軍に向かって怒号を叫ぶ。
「者共ぉぉおおお!!!!!我に続いて突撃せよおおおお!!!!!!」
曹操軍第一陣に選ばれた猛者達が魂の底から雄叫びを上げて将軍の言葉に答えた。自らの本懐を遂げるがのように夏候惇は我先にその列に向かって突っ走る。仁ノ助は駆け馬に鞭を打ちながら眼前に広がる有象無象の獲物の中から、自らが狩るべき対象を冷静に選び抜く。いくら切れ味が良い武器であろうとも血脂がのってしまえば鈍ってしまう。なるべく最小限の敵のみを殺しながら敵将に向かわねばなるまい。
「曹仁、俺は先に駆けるぞ!!」
「副官を差し置いてそれはない・・・・ってちょっとぉっ!!」
本来夏候惇の背中を守る立場にある曹仁は突込みを入れるも、仁ノ助は二月以上も乗っている駄馬に鞭を入れてさらに早く駆けていった。彼はこの戦で馬を変える気でいるのだろうか。本来以上の力で走らされている馬は哀れのあまり口から涎を垂らしている。
敵との距離が四分の一里となったあたりから、目に節穴でも開いていたのか漸く賊軍が新たな敵にどよめいているのが分かってきた。
生臭く不健康な血をさらに大地にぶち撒けようと、夏候惇と仁ノ助は待ちきれんとばかりに己の得物を抜く。目の前を必死に逃げる賊はちらりとこちらを振り返るとさらに足を速める。中には剣や糧食を手放して足を動かすものも居る。それら全てを餌食にしてくれんと、遂に曹操軍が黄巾の軍列に食い込んだ。
真っ先に武器を振るったのは前を行く二人と半瞬遅れた曹仁である。七星餓狼の勢いは凄まじく、脳髄ですら剣に当たった瞬間に八方に吹き飛ぶ。クレイモアが振るわれれば体の一部を切り落とされる賊が喚き、後続の騎兵隊が戟と槍・剣を振
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