第二章:空に手を伸ばすこと その四
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びながら面白可笑しく答える。
「ただの伝令だよ。よっぽど重要らしく、一介の馬鹿な賊を介せずに俺を遣わすほどだ。予想は出来るだろう?」
元山賊の自分自身を馬鹿にしているような気がしてむかむかと腹が立ってくる。男はそれを意識してかしないでか話を続ける。
「『三つ子のあやしは計画通りに進行中』だとさ。いやぁ、凝った暗号ですこと」
「・・・っ・・・」
暗号を言うあたりからから自分を見つめてきた男の視線を見て、先ほどまで溜めた怒りが沈んで背筋に冷や汗が流れる。茶化すような口調とは裏腹に視線が完全に冷え切っている。
もしかしたら先ほど言った伝言の内容を粗方分かっているのかもしれない。だがここで動揺したらこいつに何かを悟られてしまう。冷えた視線を熱するように波才は威勢を取り戻して睨みつける。
数秒の間、視線は僅かでも離れなかったが、黒ずくめの男が波才の努力に諦めたかのように笑みを零すと言葉を続けた。
「まぁ俺は伝えることは伝えたし、すぐにでも広宋に戻るとしよう。では波才殿、後は委細よろしく」
二の次を言わせないように矢継ぎ早に言葉を出すと、黒ずくめの男は飄々とした態度を崩さずに本陣の幕をくぐって外に出た。そのすぐ後、馬が駆ける男がしたことから本当に直ぐ帰ってしまったらしい。内心に溜め込んだ怒りと同様を吐き出すように溜息が毀れた。
(なぜあんな奴を重用するのか理解が出来ませんよ、張角様・・・。)
彼の脳裏に自身が崇拝する人物が浮かび上がる。その者が持つ気性あの怪しげな風貌を持つ男を受け入れるとは到底思えなかった。風貌もさることながら、その内心も彼には見えてこない。常に自分の心の深奥を覗き込んでくる視線にはかなり耐えかねるものがあった。
しかしいつまでもそんなイヤなことを気にしている場合ではない。頭をぶんぶんと強く振って波才は現状打開の戦術を編み出そうと苦悩する。
既に自軍の兵達は攻撃が進まないことに苛立ちを募らせており、下手を打てば暴発させてしまい自分すら危うくなる危険があった。苛立ちを消すために時折官軍に攻撃を仕掛けているが、相手方はひたすらに防御を固めており攻め落とすにはかなりの犠牲が伴うだろう。
また、そろそろ糧食も心細くなってくる頃合である。進軍の度に略奪と陵辱を横行してきた彼らは、一月半でも足を止めてしまうと食糧不足が発生してしまい、軍隊全体の補給が滞ってしまう致命的な弱点を供えていた。これを避けるためには城を攻め落とすか若しくは諦めて周辺の村へ行くしかない。しかし蒼天の獣達を目の前にして背を向けるとなると、黄巾の信奉者達からの圧力が厳しくなり、やはり自身の命が危うくなってしまう。
どうあがいても八方塞に見えてしまう現状に波才は頭を抱える。そして悩んでいるうちにまた日が過ぎていく
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