第三部 1979年
孤独な戦い
月面降下作戦 その3
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」
「それなら結構」
「情報が早いな。どうしてそのことを」
参謀総長はいぶかると、国防相は、きッと改まった。
「斎御司家の下にいる、二重スパイからの報告だ。
城内省から、帝大の宇宙科学研究所に協力依頼があった。
明日、いや、もう今日だが、火星探査衛星の打ち上げてほしいという依頼だ。
総理府の航空宇宙技術研究所も協力するという話だ」
ここで、日本の宇宙開発の組織の歴史を、簡単におさらいしてみたい。
日本には3つの宇宙開発組織があり、すべて独自の予算と計画で動いていた。
一つが、糸川英夫博士が1954年に立ち上げた、生産技術研究所の糸川研究班である。
その後、糸川博士の研究は規模が拡大し、宇宙科学研究所となった。
1981年、国の管轄下におかれることとなった。
文部省の宇宙科学研究所(ISAS)を経て、宇宙科学研究本部に改組された。
二つ目が、航空宇宙技術研究所である。
同研究所は、総理府の管轄にあったが、後に科学技術庁に移った。
その後、1997年からの行政改革により、文部科学省航空宇宙技術研究所に改組された。
三つめが科学技術庁内に設置された宇宙開発推進本部である。
そこから発展して、1969年に科学技術庁の下部機関として、宇宙開発事業団が設置された。
40年以上にわたって、日本の宇宙開発はばらばらの機関で行われたが、余りにも非効率だった。
効率化を図るために、2003年に宇宙航空研究開発機構として統合され、再出発を果たしたのだ。
「同志参謀総長、君が日本野郎の意見を素直に聞いていたら」
そう言ってマカロフ拳銃を参謀総長の方に向ける。
これは、参謀総長を撃つものではない。
彼を威圧するため、取り出したものであった。
「で、来た訳だ。よろしく頼むぞ」
参謀総長は、焔のような息を肩でついた。
覆い得ない悲痛は、唇をも、眦をも、常のものではなくしている。
しかも、将官たる矜持を失うまいとする努力は、彼にとってこの混乱の中では並ならぬものにちがいない。
マサキが仕掛けた陰謀のことも、彼は今、ここへ来て初めて知った程だった。
何か、信じられないような顔色ですらあった。
「同志参謀総長、その女を使ってもよいぞ。
なんなら、木原を暗殺させてもいい」
国防次官が連れてきた女は、赤軍中尉の階級章を付け、ワンピース型の婦人熱帯服を着ていた。
参謀総長は、迷惑そうにしていたが、男は、盛んにたきつけた。
「もっとも、ESPの数少ない生き残りの兵士だがな……」
そう言い捨てて、国防次官は車に乗り込むと、彼方へと走り去っていった。
参謀総長が得たものは、彼の迷いとは、正反対なものだった。
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