第三部 1979年
孤独な戦い
月面降下作戦 その3
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に。議長の娘が、木原へ嫁いだ……?」
国王は思わず、手に持っていた筆を取り落した。
そのおどろきが、いかに大きく、彼の心をうったか。
国王は、とたんに手脚を張って、茫然と、空の雲へ向けていた放心的な眼にも明らかであった。
「とにかく、これ以上の東側の増長は危険だ。
早急にインド方面にいる諜報員へ、工作を仕掛けよ」
国王の目には、涙があふれかけていた。
情報部長は、恐懼して、最敬礼をしたまま、宸襟を痛察した。
ああ、大英帝国のこの式微。
他方、米国は栄え、新型爆弾の威は振い、かのニューヨークの摩天楼など、世の耳目を集めるほどのものは聞く。
だが、ここサクス・コバーグ・ゴータ朝の宮廷は、さながら百年の氷河のようだ。
宮殿は排煙に煤け、幕体は破れ、壁は所々朽ち、執務室さえ寒げではないか。
「情報部長、忘れはおるまいな。
かつて英領インドの地を日本が支援した独立運動で奪われた事を。
……あの折は、戦争に勝って、政治に敗れた。
だが、この度の日ソ会談の由を聞いて、いかに余が心待ちしていたかを察せよ……」
情報部長は、悲嘆のあまり、しばしは胸がつまって、うつ向いていた。
国王は、彼の涙をながめて、怪しみながら、ふたたび下問した。
「月面攻略作戦は、目前に迫っている。
仮にゼオライマーのおかげで作戦が成功すれば、その評判は広く四海に及ぶ。
日本の奴らが、米国にとって代わる危険性もあるのだ」
「かならず、宸襟を安め奉りますれば……
陛下も、何とぞ、御心つよくお待ち遊ばすように……」
情報部長は、泣いた目を人に怪しまれまいと気づかいながら、宮殿から退出した。
場面は変わって、日本の京都。
二条にある帝都城の大広間では、臨時の会議が招集されていた。
閣僚、政務次官の他に、事務次官や局長、譜代の武家や公卿衆までがずらりと居並んでいた。
やがて一の間の扉が開かれ、紫の衣を着た将軍が入ってきた。
一斉にその場にいる者たちが、最敬礼の姿勢を取る
「誰ぞ!雷電と木原はどうした!」
将軍の下問に対し、閣僚の列から外相は歩み出る。
一の間の上座を前にして、平伏しながら答えた。
「殿下!ソ連赤軍参謀総長と会談中との情報が入りました」
「そうか……全て予定通り、物事が運んでいるとの事だな」
将軍のいる一の間から離れた二の間にある政務次官の席にいた、榊是親は訝しんだ。
日ソ会談をしたぐらいで閣僚や時間を集めて、評定をするのだろうか。
おそらく将軍の真意は別にあるのではないか。
今回の会談の脚本を書いたのは、誰であろうか。
おそらく計画を書いたのは御剣であろう。
まさか一科学者である木原マサキが、こんなことを計画できるはずがない。
マサキのような風来の徒を
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