第三部 1979年
孤独な戦い
月面降下作戦 その2
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瞬にして、主人の言葉を理解する。
そして、あわてて言った。
「おい、木原を呼んで来い。――大急ぎで!」
鎧衣たちは、馳けて行った。
簡単な昼食会を挟んだ後、話し合いが始まった。
あくまで、G元素そのものの不拡散を目的とする日本。
一方、日本との共同開発を主張するソ連。
相反する二つの主張は、平行線をたどった。
やがてソ連側は日米安保条約について、日本側を非難し始めた。
しかし、それで怯むような御剣ではない。
逆に東欧諸国にいる駐留ソ連軍に関して、非難を始めたのだ。
「大体、駐留軍を置きながら東ドイツが独立国家とはどういうことだ。
貴様らが忌み嫌った、帝国主義そのものではないか」
「それは……」
御剣の鋭い剣幕に、さしもの参謀総長も言葉がなかった。
チェコ事件に参加した経験があった故に、ソ連の暴力主義的な外交を実感していた為である。
「東欧から軍隊を引き揚げて、初めて日米安保条約や米独の軍事協定を非難できる」
話し合いは難航を極めた。
6時間に渡って、双方の政治体制の非難に終始したためである。
「では、最後の提案をしよう。
わが日本の脅威となる北樺太から、ソ連赤軍の全部隊を引き上げる。
この約束が実現されなければ、この話し合いには応じられない」
ソ連側の人員は、百戦錬磨のGRU工作員に、辣腕外交官と凄腕ぞろいだった。
けれどこの時は、さすがに、日本側の随行員の顔からも動揺の色が見えた。
「サハリンからの全軍撤兵だと!」
「そうすれば、日本政府としても、G元素の共同開発の話し合いに応じる準備がある」
事の重大に、にわかに、賛同の声も湧かなかった。
代りにまた、反対する者もなかった。
寂たる一瞬がつづいた。
「2時間ほど休憩をしよう。
その間に本国と連絡を取り給え」
赤軍参謀総長から連絡を受けたチェルネンコ議長は、意気銷沈していた。
「同志スースロフ、どうしたものか」
例によって、ソ連共産党イデオロギー担当で、懐刀といわれる彼に計った。
第二書記はいう。
「同志議長。遺憾ながら、ここは将来の展望に立って、作戦の大転機を計らねばなりますまい」
「大転機とは」
「ひと思いに、日本野郎の裏をかき、月面ハイヴを核攻撃で廃墟にすることです」
「横取りするのか」
「そうです。
レバノンの戦いで、KGBのアルファ部隊すら敗れてから、味方の戦意は、さっぱり振いません。
一度日本野郎に応じるふりをして、兵を引き上げて、時を待って、戦うがよいと思います」
第二書記の説を聞くと、チェルネンコは、にわかに前途が開けた気がした。
その説は、たちまち、政策の大方針となって、閣議にかけられた。
いや独裁的に、第二書記の口から、幹部へ言い渡されたのであっ
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