第三部 1979年
孤独な戦い
月面降下作戦 その2
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絢爛は、かつてのムガル帝国の儀仗と見まがうばかりであった。
「遠いところを良くいらっしゃいました。
あなた方、ソ連こそ、わがインドにおける最大の友人です。
今日は、わが国土に、紫雲の降りたような光栄を覚えます」
インドの首相は、ソ連の外交団長を、高座に迎えて、最大の礼を尽した。
外交団長も、インドの歓待に、大満足な様子であった。、
やがて、日が暮れると共に、タージマハルホテルで盛宴の帳は開かれた。
赤軍参謀総長ら、550名の使節団は、酒泉を汲みあい、歓語の声が沸き返った。
インドはロシア人にとって常夏の国なので、ソ連軍人の服装は軽装だった。
青色のウール製の礼装ではなく、灰色の盛夏服と呼ばれる服装だった。
将官は灰色の上着に濃紺のズボン、佐官以下の将校は深緑の常勤服。
海軍将校は、1号軍装と言われる白い上下の夏服だった。
赤軍参謀総長は、インド側の歓待に斜めならぬ機嫌である。
非常な喜色で、ソ連とインドの関係を強調した。
「アハハ、安心するがいい。
悪辣な契丹の侵略者が来ても、ソ連赤軍がいる限り、指一本も触れさせん」
契丹とは、トルコ方面における支那の雅称である。
遼王朝を建設した民族に由来し、ロシア語の志那を指し示す、キタイ(Китай)という言葉の語源である。
首相は秘蔵の酒を開け、銀製の酒杯についで、献じながら静かにささやいた。
「なんとも心強いお言葉ですな。同志参謀総長」
参謀総長は、飲んで、
「その代わり、代償として南インドの開発は我らの思う通りに存分にやらせてもらうぞ」
「はい、ムンバイの湾港建設などお望みのままに……」
「お望みのままにか……フハハハハ」
赤軍参謀総長の甘い言葉と軍事支援に、インドの指導部はこびへつらい、膨大な権益を提供するのであった。
核ミサイルと新型の軽水炉の支援の代わりに、潜水艦基地建設と農産物の低価格輸出を決めたのだ。
『アメリカや日本野郎の邪魔が入る前に、残らず頂戴しようではないか!』
まるでそんな声が聞こえてくるようなばかりの、心からの哄笑であった。
日ソ交渉は、インド洋に浮かぶ美しい島、モルディブで行われることとなった。
既にソ連外交団は、同国初のリゾート地であるクルンバ・モルディブで待ち構えていた。
「木原は本当に来るのでしょうか」
副官であるブドミール・ロゴフスキー中尉は、赤軍参謀総長に心配そうに訊ねた。
しかし、その発言は杞憂だった。
水平線の向こうから、マレ国際空港に航空機が近づいてくるのが見えた。
その後ろには、複数の飛行物体が続いている。
「あれを見てください」
一体は、あの憎いゼオライマー。
もう一体は、白を基調と
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