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冥王来訪
第三部 1979年
孤独な戦い
月面降下作戦
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から燦然と現れる閻魔王にさえ思えた。
「むう……これほどとは!」
 首相のおもてには、どこにもほっとした容子はない。
土星BETAの殲滅報告をマサキから受けて、安堵もあるはずなのに、それとは逆な様子だった。
「これからだ! ……。むずかしいのは」
独り呟いているかのような硬めた眉の影だった。


 内閣の質疑から解放されたマサキは、官邸近くにある喫茶店にいた。
個人経営の店であったが、政府関係者が主な客で、半ば職員用の休憩所であった。
 美久とともに軽食を取りながら、熱いカフェラテとタバコで一服していた。
すると、二人の人影が現れた。
 白銀と鎧衣である。
白銀は帽子を脱ぐと、一礼をした後、
「先生宛に、ソ連外務省から連絡がありました」
「何!」
 マサキは、どきとした色で、聞き返す。
それの実否を、ただす()もなかった。
「エネルギーの共同開発を行いたいので、返答が欲しいそうです」
 ソ連の国際的立場が危ういから、G元素の開発にかじを切ったのか。
そんな余裕が、どこにあるか、と言いたげに、マサキは眼を丸くした。
「エネルギーの共同開発だと!」
と、マサキは感情まる出しに、怒った。
「ソ連の奴ら、何を寝ぼけたことを言ってるのだ」
「断りますか……」
「その必要はない。捨ておけ!」
 鎧衣と白銀は、思わず顔を見合せた。
思い当りがなくもないからであった。
 
「木原君……」
この時、鎧衣はチャンスとばかりに、マサキに水を向けた。
「なんだ、鎧衣!」
鎧衣は、マサキにそれとなく探りを入れてきた。
「考えようによっては、またとない機会……」
マサキは、むきになって、言いまくしたものだった。
「良い機会だと!」
臆面もなく鎧衣は、彼に打ち明けたことだった。
「ソ連の交渉に応じて、その間にG元素を全て米軍に渡せばよいのではないか」
 鎧衣と白銀は、特に示し合わせた訳ではなかった。
だが、目を見合ううちに、互いの心をお読み取っていた。
「なるほど、それは良いですね。
先生、奴らの提案に応じてください」
 白銀からの思わぬ発言に、ギョっとしつつもマサキは必死に心を静めた。
おおよその状況を把握してから、どう行動するか決めようと思ったのだ。
「……」
 マサキは、途方に暮れた眉だった。
会話は、そこで途切れてしまった。


 喫茶店での話もそぞろに、マサキは岐阜基地の格納庫に戻っていた。
対BETA用の新兵器の最終調整を一人進めているところに、美久は声をかける。

「これはなんですか」
 美久が見たものは、奇妙なものだった。
タンクローリー用のセミトレーラーを流用したもので、横倒しのタンクを縦に配置し直したものである。
全高11.97メートル、全長3.095メー
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