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冥王来訪
第三部 1979年
孤独な戦い
月面降下作戦
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の立場がなくなるどころか、話のこじれ方によっては緊張緩和(デタント)そのものの崩壊もありうる。
外相という立場の判断で、グロムイコは途中参加をためらった。
 このまま、放っておける問題ではないと思ったが、下手な行動は慎まねばならない。
第一、赤軍を散々苦しめた重光線級がいるかさえも、十分にわかっていないからだ。
確実なのは、木原マサキが土星への威力偵察をしたという事実だけ。
 なぜ木原が、単独で……
これが解明されなければ、迂闊(うかつ)に介入できない。
かといって、このまま知らぬふりをすることは、なおの事、出来なかった。

「同志議長」
()していた参謀総長が、そのとき、初めて口をひらいた。
「ん?」 
「私は、木原に話し合いを申し入れようと思っております」
 その場に衝撃が走った。
室中、氷を敷き詰めたように冷え冷えとした空気が、政治局員たちを包む。
「そんなはずはない」
「君の楽観論であろう」
「何かの、まちがいか?」
人々は、仰天して、騒いだ。

 混乱を受けてか、チェルネンコは、途端に驚愕の色をあらわす。
両手を広げて、参謀総長の方に振り返った。
「木原と話し合い?」
 外相は、参謀総長の提案を一笑の下に切り捨てた。
日ソの外交関係の30年を知っているものにとって、その提案はあまりにも馬鹿げていた為である。
「同志参謀総長、冗談はよしてくれ」
「私は真剣です」

 最近のマサキの心境なども、ソ連赤軍には的確にまだつかめていない。
洞穴(ほらあな)に隠れる熊みたいにそれは不気味な感がある。
なので、「まずは、ヘタに触さわるな」と様子を見ていたのである。
 それをいま、議長が、
「で、日本野郎と会って、何を話し合おうというのだね」
さも憎げに怒りをもらしたので、参謀総長にすれば、マサキの秘密を探る、勿怪(もっけ)の幸いと、すぐ考えられていた。
「G元素の共同開発を申し出るのです」
 参謀総長は口付きタバコの「白海運河」を出して、火をつけた。
話をほかへ持ってゆく手段である。
さし当って、マサキの作戦の狙いとは、何なのかか。
それを、議長の権力でつきとめさせたい。
「いかがなものでしょう」
参謀総長は、すすめた。

KGB長官も、当惑顔のほかなく、
「ま、皆さま、お静まり下さい」
と、左右をなだめ、
「同志参謀総長、それは夢物語ですよ。
我らとG元素の共同開発を進めるなんて、日本野郎が応じると思うんですか!」
 KGB長官が、米ソの間を行き来している日本の立場をはなす。
参謀総長はまた、わざとのように、彼の気弱さを、あざわらった。
「出来るかどうか、一応話し合ってみるべきですな」
「議長殺しの悪党と、誰が話し合いに行くというのか!」
「この私が交渉に
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