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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第66話 用意周到 本末転倒
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ういうとコツコツと足音を鳴らしつつ、俺に近づいてくる。その姿はまるで獲物を見つけた狼のように見える。獲物は当然俺だ。一応准将も副官も銃は携帯していない。だが地上軍の士官は肉体が兵器だ。生身の准将が、装甲服を纏った白兵戦隊員一〇人に勝てるはずはない……のに、なぜか負ける未来しか想像できない。

「ボーデヴィヒ准将」
「なにかね」

 ほとんど至近。腕が襟元に伸びれば、間違いなく一瞬で俺を昇天できる距離にまで近づいた准将は、俺に手を縦に差し出した。俺の視線がその手に向かい、次に准将の顔に向いた時、准将の顔には奇妙な、ほっとしたような笑顔があった。そして差し出した右手ではなく左手で俺の右手首をがっちりと掴むと、強制的に握手をさせられる。解こうにも万力に固められたような力強さでびくともしない。

「……お芝居はもう止してもらって結構ですぞ。卿が同盟軍のどなたかは存じ上げないが、小官は卿に礼を申し上げに伺ったのです。本心から」
「礼、だと?」
「ええ、ようやく小官も納得ができましたので」

 そう准将は言うと手を放してくれた。手を見れば准将の指の後が真っ赤になって残っている。

「改めて申告します。帝国軍エル=ファシル星系遠征部隊陸戦部司令のフォルカー=レッペンシュテット准将です。卿のご尊名を賜りたい」

 俺から少し離れてする准将の敬礼には一分の隙もない。これは嘘は言えないなと思いつつ視線を横にすると、サンテソン少佐が航海長席から、他のオペレーター達もそれぞれの席からブラスターを准将と副官に向けているのが見える。なのに准将も副官もまるで意に介していない。銃を向けられ、こちらを同盟軍の人間だと分かっているにもかかわらずだ。それはつまり……

「……小官の名前をお教えするのは結構なのですが」
「が?」
「まずは当艦の空気清浄システムを最大可動させてからでよろしいでしょうか? でなければとても怖くて小官は閣下とお話しする自信がありません」
「……そういえば最近装甲服を着ていなかったもので、発生装置のことをすっかり忘れておりました」

 ハハハハハッと笑いながら、准将は両手を軍服のポケットに手を突っ込むと、裏地を引っ張り出すのだった。

 それからはこちらが想定していたシナリオを一〇時間以上すっ飛ばしてしまうことになる。

 予定ではフィンク中佐の部隊と合流し、星系外縁部へ向けて逃走。三〇隻の囮部隊を撃破してきた第四〇九広域巡察部隊か、一時的に第四四高速機動集団に組み込まれた第五四四独立機動部隊分遣隊二〇〇隻と、俺の率いる帝国軍救援部隊残存部隊が擬似交戦。殆ど輸送艦と化している三〇隻を逃す為に、俺と救援艦隊は輸送艦の楯となって『玉砕』。さらに逃走を続ける中佐の部隊は、第四四高速機動集団に包囲され降伏する。降伏しない場合は、
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