第三章
[8]前話
弓は馬に乗っている時は使わなかった、乗っていても必ず降りてそうして使っていた。そうするとだった。
弓は決して外れずまたどんなものでも射貫いた、それで誰もが為朝を当代一の弓の使い手であると褒め称えた。
それで保元の乱の時もだった。
彼の兄である源義朝は弟が守る館を攻める時に兵達に言った。
「よいか、弟の八郎がだ」
「あの方がですか」
「おられますな」
「だからな」
為朝、普通の名をそう言う彼のことを言うのだった。
「用心せよ」
「わかりました」
「それではです」
「そのうえで進んでいきます」
「そうします」
「あ奴の腕は百発百中」
そこまでの威力であることも話した。
「しかもあらゆるものを貫く」
「左様ですね、八郎様は剛力の方です」
「そのお身体で途方もない力も備えておられます」
「その八郎様の弓を受ければ」
「誰であろうとも」
「鎧も兜も意味はない」
あらゆるものを貫くだけにというのだ。
「そうであるからな」
「だからですね」
「我等も用心せねば」
「八郎様に倒されます」
「そうせよ、あの者は天下無双の弓使い」
義朝は強い声で言った、黒い髭が顔の下半分を覆い毅然とした目であり威風堂々といった風情である。
「馬に乗っておらねば外さぬ」
「だからですね」
「今より用心してですね」
「そうしてですね」
「攻めるのじゃ」
こう言ってだった。
義朝は兵を進めさせ弟が護る館に向かった、彼が天下無双の弓使いと知っているが故に。そして為朝はこの戦で弓を存分に使い。
敗れはした、だがこう言われた。
「その弓お見事だった」
「やはり当代一の弓使いよ」
「あれだけの弓の名手はおられぬ」
「全く以て見事なものじゃ」
誰もが褒め称えた、馬に乗って弓を使うことは不得手であることは誰も思わなかった。実際に戦ってそれで凄いものだったからこそ。
馬上 完
2021・11・12
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