第一章
[2]次話
馬上
源為朝は弓の名手と言われている。
その弓は剛そのものであり狙いは外さずそうしてだった。
貫けるものはなかった、だが。
彼は武士だけあって馬にも乗れたが馬に乗って弓を使うとだった。
「どうもな」
「馬上での弓はですか」
「この通りじゃ」
鍛錬で馬に乗りつつ弓を使いつつ言った、馬を走らせ先を丸めた弓で走る犬を射る犬追物という鍛錬に興じてもだった。
犬に当たらない、他の者は当てて犬を痛がらせていたがだ。
「一向に当たらぬ」
「八郎、お主どうしてじゃ」
ここで父の為義が怪訝な顔で言ってきた。
「お主の弓は天下一じゃ」
「八幡太郎様にもですな」
「後れを取らぬ、そして馬もな」
こちらもというのだ。
「秀でておるが」
「それがですな」
「どうして共にすると駄目なのじゃ」
こう息子に言うのだった。
「鎧兜を身に着けても弓を使え馬に乗れるが」
「それが共になるとですな」
「弓が下手なのじゃ」
息子に怪訝な顔のまま問うた。
「何故じゃ、いや」
ここでだ、為義は。
息子のその大柄な身体、周りの誰よりも遥かに大きいそれを見て言った。
「その図体のせいか」
「そのせいですか」
「お主は大きい」
非常にとだ、為義は述べた。
「それ故に剛力でじゃ」
「弓を使ってもですな」
「貫けぬものはない」
その強さだというのだ。
「また狙いも外さぬが」
「それでもですか」
「お主の身体で馬に乗るとな」
馬術自体はよくともというのだ。
「それだけで馬が疲れる」
「それで、ですか」
「馬がふらふらとする、実際お主を乗せた馬は皆すぐに疲れてじゃ」
そうなってというのだ。
「満足に動けぬ」
「実はどの馬もです」
為朝は自分が飼っている馬達の話をした。
「これがです」
「痩せておってか」
「すぐに疲れます」
「お主の図体を乗せてはのう」
「たらふく食わせておりますが」
「そんな馬に乗って弓を使ってもな」
それでもというのだ。
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