第五章
[8]前話
「仙人になるしかない」
「では我等が行けたのは運がよかった」
「だからですか」
「左様、そしてこの度はその運がなかった」
そうだったというのだ。
「そういうことだ、では帰ろう」
「申し訳ありません、案内出来なくて」
「折角のことだというのに」
「よい、桃源郷なぞそうそう行けぬ」
太守はこのことがわかっていた、そのうえで二人に話した。
「謝るには及ばぬ、では戻ってな」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「何かと備えよう、折角天下は一つに戻ったが」
太守は今度は暗い顔になって述べた。
「危ういかも知れぬ」
「危うい?」
「泰平になったのにですか」
「帝のお話を聞いているとな」
司馬炎、彼のことをというのだ。彼が後宮に入り浸り政をおろそかにしていることを彼も知っているのだ。
「若しやな、それに備えるか」
「何もなければいいですが」
「折角泰平になったのに」
「私もそう思う、だがわからぬ」
こう二人に言ってだった。
太守は二人にこうも言った。
「お主達また物騒になっても備えはしておれ」
「備えですか」
「これまでの様な」
「そうしておれ、何があるかわからぬからな」
こう言って彼は二人に他の者達を連れて武陵に戻った、そしてその後で二人は太守の言葉に成程となった。
「まさかな」
「また物騒になるなんてな」
「この辺りはいいが北は大変らしいな」
「王様達が争ってな」
所謂八王の乱が起こり国は大いに乱れていた、武陵に害は及んでいないがその酷さは彼等も聞いていた。それで話すのだった。
「一体どうなるか」
「折角泰平になったというのにまたか」
「これじゃああそこにいた方がよかったな」
「そうだな」
「あそこに行ける奴がいたら幸せだな」
「北の方でな」
こうぼやくのだった、そしてだった。
彼等はやがて北がさらに酷くなったと聞いてまた思った、あちらにいる者の少しでも多くの者が桃源郷に行ければと。だが何人がその場所に行けたかは二人は知ることは出来なかった。
桃源郷 完
2021・12・13
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