第四章
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「我々も」
「あの、貴方はやはりバイエルンの方ということですか?」
「海をご存知ないのですか?」
「海がどれだけ恐ろしいか」
「何時何があるか」
内陸の国で生まれ育ったシーボルトに海の国の者として言うのだった。
「それが海です」
「あんな恐ろしい場所もありません」
「まさに魔物です」
「特にこの国の海は厄介です」
「周りは難所ばかりです」
「その海を進むのですから」
「そうされた方がよかったです」
こう言うのだった。
「若しもの時は地図を海に捨てる」
「そうして持ち出した証拠を隠滅する」
「そうするべきでした」
「万が一にも」
「その時に備えて」
「幾ら何でもそこまでしなくていいでしょう」
シーボルトは流石にという顔で応えた。
「もうそれは国家機密扱いではないですか」
「ですから幕府はそう思っています」
「幕府の上の方々で政治のみに携わっている方々は」
「ですから私達も申し上げてきましたし」
「今もそうしています」
「もう送ってしまいましたが」
「それでもです」
「まさか。では船も見えなくなったので」
シーボルトは楽観したまま彼等に応えた。
「戻ってコーヒーを飲みましょう」
「何もなければいいですが」
「船に」
「そうであることを祈ります」
「せめて日本の近くでは沈まないことを」
オランダ人達は心配するばかりだった、だがシーボルトは至って楽観していて祖国に戻った時地図をどう使おうかと考えていた。
だがその楽観は暫くして裏切られた、出島にずかずかと長崎奉行所から多くの人が来てシーボルトを囲んだ。
「あの船が」
「そうだ、沈んだ」
多くの者達を率いる与力がえらい剣幕で言ってきた。
「そこに地図が出て来た」
「あれが」
「取り調べによりそなたが国に持って行こうとしたものだとわかった」
「それはそうですが」
シーボルトもそれは事実だと認めた。
「何処が悪いのですか」
「悪いに決まっておる、本朝の地図を何に使うつもりだ」
与力はシーボルトを睨んで問うた。
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