第一章
[2]次話
大統領の髭
エイブラハム=リンカーンの顔はかなり長い、一九〇を超える長身で太い眉に黒に近いダークブラウンの髪で目は小さい。
威風堂々たる外見だ、だが。
「何か足りないな」
「そうだな」
「リンカーン氏にはな」
「どうもな」
「そうだな」
周りはその彼を見て話した。
「外見的にな」
「堂々たるものでな」
「恰好いいが」
「見栄えで何か足りない」
「そう思えるな」
「どうにも」
こう言っていた、そしてだ。
リンカーン自身もその話を聞いて妻に言った。
「私には何か足りないのか」
「そう言われればそうね」
妻もこう言った。
「あなたにはね」
「資質は言われない」
「ええ、やがて大統領にもなる」
「そして大きなことが出来るとな」
「あなた自身も思っているわね」
「その通りだ、確信出来るだけの経験と学問は積んできたしな」
それだけにというのだ。
「自信がある、そして顔立ちにもな」
「自信があるわね」
「鏡で見てもその相はな」
人相はというのだ。
「悪くないと思う」
「人間の生き方は人相に出るわね」
「特に四十にもなればな」
そうなればというのだ。
「それが出る」
「そうね」
「だから私は人の顔を大事だと思っている」
「それは整っているかどうかではないわね」
「それはもうそれぞれで主観でもある」
顔の造りのよし悪しはというのだ。
「岩の様な顔でも生き方がいいとな」
「人相はいいのね」
「そうだ、大事なのは人相だ」
それが問題だというのだ。
「人相が悪い者はな」
「用いたくないのね」
「絶対にな、悪事を働くか無能だったりな」
「そうした風だから」
「用いたくない」
人相の悪い者はというのだ。
「決してな」
「そうなのね」
「だが私は大統領を目指している」
「それなら」
「容姿が目立つとな」
それならというのだ。
「それだけ知られ注目されてだ」
「そうしてなのね」
「政策を主張しても演説をしても目立たない外見よりもな」
その場合よりもというのだ。
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