第五十三話 雨の東京その八
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「歯のことは昔はね」
「悪い人多くて」
「太宰は不摂生もあったけれど」
「当時は普通だったのね」
「三十代でかなりなくてもね」
それでもというのだ。
「実際昔今より差し歯や金歯の人多かったそうだし」
「今金歯ってないわよね」
「そうよね」
「私あまり見たことないわ」
「私も」
「それでも昔はね」
かつてはというのだ。
「多かったのよ」
「そうなのね」
咲はクラスメイト達との話で今日は太宰治のことをはじめとしてかなりのことを学んだと思った、それでだ。
この日はアルバイトだったので速水に太宰のことを話すと彼は思い出した様な顔になってこう言った。
「そういえばそろそろ桜桃忌でしたね」
「そうみたいですね」
「あの人の命日でしたね」
こう言うのだった。
「言われますと」
「そうですね、ただ」
「ただ?」
「太宰治が亡くなって何処に行ったかですね」
「そんなお話もしました」
「彼も芥川も自殺しましたが」
それでもというのだ。
「地獄にはです」
「行っていないですか」
「はい、少なくともです」
「占いでそれがわかりますか」
「心中で人も巻き添えにしていますが」
「かなり重罪ですよね」
「ですがその作品で多くの人の心を救いもし学問としても提供しているので」
その為にというのだ。
「功績もあるので」
「だからですか」
「地獄には落ちていないです」
「そうですか」
「罪を犯しても功績があれば」
そうであればというのだ。
「地獄には行きません、地獄は相当な悪人でなければ」
「行かないですか」
「仏教ではあまりにも卑しい人が餓鬼になります」
速水は地獄の上にあるというこの世界の話もした。
「生きながら餓鬼になれば、その心が」
「そうなればですか」
「はい、死んでもです」
「餓鬼になりますか」
「そうなります、餓鬼になることすら」
「地獄よりましなですね」
「人間の底を割って」
そうしてというのだ。
「人でなくなるまでに堕ちねばならないので」
「だからですか」
「はい」
こう言うのだった。
「餓鬼になることはです」
「難しいですか」
「そして地獄に堕ちることは」
これはというと。
「その餓鬼になってです」
「餓鬼道に堕ちるよりもですか」
「難しいのです」
尚芥川は自分の仕事部屋を餓鬼窟と呼んでいた、そこに彼の自嘲を見るかユーモアを感じるか別のものを感じるかは人それぞれか。
「ですから」
「地獄に堕ちることは」
「まことにです」
「難しいんですね」
「人で完全になくなって」
そうしてというのだ。
「心が化けものにならないと」
「堕ちないですか」
「私はそう考えます」
「そこまでのものですか」
「それ
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