第五十三話 雨の東京その一
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第五十三話 雨の東京
六月と言えば梅雨と言われる、咲はこの時この言葉を思い出していた。
そのうえで自分のクラスの窓から降り続けている雨を見て言った。
「昨日の夜からずっとよね」
「そうね、降ってるわね」
「かなりの勢いだしね」
「梅雨って言うけれど」
「凄いものね」
「そうよね、これだけ降ったら」
咲は雨を一緒に見ているクラスメイト達に話した。
「水不足もないけれどね」
「そうそう、農家の人達も助かるわ」
「畑や果樹園にもお水必要だしね」
「特に田んぼにね」
「だからね」
「雨も降ってくれないとね」
「困るのよね」
「そうなのよね、だから梅雨はね」
この季節はというのだ。
「どんどん降ってくれないとね」
「正直雨は嫌だけれど」
「鬱陶しいけれどね」
「濡れるし車がお水はねさせてきたりするし」
「傘もささないといけないしね」
「何かと嫌だけれど」
「降らないと困るのよね」
「そう、だから降ってくれることも」
このこともとだ、咲はまた言った。
「有り難いことよ」
「そうよね」
「本当に恵みの雨でもあるからね」
「降ってくれたら水不足にもならないし」
「今はどんどん降って欲しいわ」
「それで今朝の玉川上水見たら」
クラスメイトの一人がここでこう話した。
「水かさかなり増えてたわ」
「そうなの」
「そう、昨日の夜の七時からずっと結構な勢いで降ってるから」
その為にというのだ。
「今注意報出てるしね」
「そこまで降ってるのね」
「関東全域にね」
「それであそこもなの」
「水かさかなる増えていたわ」
そうだったというのだ。
「そういえばそろそろ十三日だしね」
「六月十三日って」
「わかる?」
「太宰治の命日だったわね」
咲はそのクラスメイトに答えた。
「確か」
「そう、十三日にあそこに飛び込んだのよ」
「愛人さんと心中したのよね」
「二人目の愛人さんとね」
当時彼は二人の愛人がいて一人目の愛人との間に女の子をもうけている、だがその愛人から逃げる様にして戦災未亡人だったその女性のところに向かったのだ。
「そうしてね」
「亡くなったのよね」
「それが六月十三日で」
昭和二十四年のことだった。
「愛人さんと一緒に亡骸が発見されたのは」
「その後だったわね」
「十九日だったのよ」
入水から六日後のことだった。
「遺体が見つかったのは」
「そうだったのね」
「それでその命日がね」
桜桃忌と言われるその日がというのだ。
「六月十三日で」
「丁度今位の時期で」
「それで玉川上水でだったけれど」
「今水かさかなり増えてるのね」
「今朝見たらね」
「何か凄く深いわね」
「何でもない様で
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