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冥王来訪
第二部 1978年
ソ連の長い手
ソ連の落日
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風を避ける為、その場に伏せている時、鎧衣は懐中より深緑色の雑納を取り出した
雑納のふたを開けると、何やらオリーブドラブの箱を抜き出す
四角い弁当箱の様な物で、それを立掛けると紐をくっつける
「グズグズしていると、ソ連兵が来るぞ」
マサキも、何時もの様な冷静さを失いかけていた
「カンボジアで習ったことがここで役に立つとはな……」
「お前は、一体何者なんだ」
彼の疑問に対して、不敵の笑みを浮かべる
「それはお互い様だよ」
そう告げると、立ち上がった

 マサキ達は、階段に向かって逃げる
時折振り返りながら、銃撃を浴びせるもソ連兵達は突き進んできた
だが兵達は、マサキ捕縛を焦るあまり、足元に仕掛けられた紐を見落としてしまう
張り伸ばされた紐が切れ、勢いよく安全ピンが抜ける音が響く
「仕掛け爆弾だ!」
米軍製の最新鋭指向性地雷・M18《クレイモア》がソ連兵を襲う
柘榴(ざくろ)の身の様に詰まった箱より、無数の鉄球が飛び出す
爆風と共に近寄る敵へ、雨霰と降りかかる
爆音が轟き、閃光が走るのを背後に感じ取りながら、彼等は屋上へ急いだ


 支那 北京・中南海

 けたたましく鳴り響く電話のベル
夜のしじまを破る様に、執務室内に鳴り響いた
灰色の人民服を着た男は、タバコを吹かしながら一人思い悩む
受話器を取ると、耳に近づけた
「もしもし……」
聞き耳を立てて、受話器の向こう側に居る男の声を聞き取る
訛りの無い北京官話で、こう告げた
「ハバロフスクで、何か動きがあったようです」
男は、相槌を打つ
「引き続き、赤軍の動向を探って呉れ」
そう伝えると静かに受話器を置いた

 中国共産党は、1977年のゼオライマー出現によって、すんでの所で首の皮一枚を繋ぎとめた
あの時、新疆のカシュガルにあるハイヴが消滅せねば、ソ連の様に少年兵の大動員をかけねばならなかったであろう
新彊はおろか、西蔵、四川、甘粛……ほぼ全てが灰燼に帰していたかもしれない
男の脳裏に、暗い未来が浮かんでは消えた
 プロレタリア文化大革命の混乱の中で、襲来した異界の化け物……
混乱の内に黄泉の国に旅立っていった国家主席
その未亡人と取り巻き達は権力闘争に邁進したが、戦時と言う事で黙認された
だが、ゼオライマーの出現によって情勢は変化した
BETA戦に一定の目途が着き、政治的な余裕が生じる
文革の為、長らく下放されていた経済改革派の官僚や憂国の知識人達は、中央に呼び戻された
彼等は、国家主席の死による政治的空白とBETA退治の決着という、この機を逃さなかった
東ドイツの無血クーデターに(うなが)される形で、政変を起こす
 件の未亡人と取り巻き達は、逮捕された
近々裁判が始まるが、どの様な末路を迎えるであろうか……
 
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