頭脳ドリンク
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も大丈夫です」
「ふーん。そこの二十年後の子と三十年後の子はダメって言ってたけど」
「三十五年後は医学が進歩して、やはり無害という結論になっています」
三十五年後の未来の子は、姿勢を正したまま淡々と言った。
すると、次は窓が開いた。
「ちょっと待ちーや!」
また中学生くらいの男の子が現れたので、蓮は「まだ増えるんだ」と苦笑した。
結局、八畳の和室がいっぱいになるまで未来の子供が現れ続けてしまった。
それぞれが、それぞれの時代の『頭脳ドリンクに対する医学的な見解』を披露。途中から子供たち同士の言い合いも始まり、騒がしくなった。
場が紛糾するなか、最後に現れていたインテリ風の子供が、連に言った。
「この場では私の時代が最新です。医学が退歩することはありませんので、頭脳ドリンクは『飲まないほうがよい』という結論でよさそうですが……。でも、お兄さんも大変ですね。いろんな時代の子供がいろんなことを言って」
蓮は首をひねった。
「ん、何で大変なの? 俺、別に迷ってないけど」
「え?」
「あ、ごめん。母さんから着信だ。ちょっと取るね」
座卓の上に置いていたスマートフォンが鳴ったので、蓮は電話に出た。
『なんかにぎやかに聞こえるんだけど、誰か来てるの?』
「うん。未来の子供たちが来てる」
『え?』
「とりあえずさ、医学はこの先も進歩し続けるってことはわかったよ。あと、二十年後には楽しそうなことができるようになるみたいだから、母さんも父さんも元気で長生きしてね」
『ちょっと、何言ってるの?』
「なんでもない。それより、びっくりしたよ。頭脳ドリンク送ってくれたんだね。ありがとう。おかげできっと明日の国家試験は大丈夫だよ」
『合格率九割って聞いたけど、やっぱり心配で仕方なかったから……。頑張ってお医者さんになる夢を叶えてね。私もお父さんも応援してるから』
「うん。頑張ってくる」
電話の途中で、子供たちが、いっせいに帰っていく。
ある子は頭を掻きながら。ある子は頭を下げて。
「あらら。みんないなくなってしまった」
電話が終わった蓮はそうつぶやき、もらった頭脳ドリンクを一気に飲み干した。
「うん。おいしい」
そして心の中で、もう一度両親に感謝した。
− 完 −
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