第五十二話 夏になる前にその十二
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「まだこうした人は救いがあるがな」
「それでもお付き合いはよね」
「するものじゃない」
「やっぱりいい人じゃないから」
「そのことは事実だからな」
「そうなのね」
「そうだ、そして餓鬼はな」
ここまで堕ちればというのだ。
「もっとだ」
「付き合ったらいけないわね」
「絶対にな」
「餓鬼にまでなると駄目なのね」
「どうしようもなくなるからな」
「そこから人間に戻れないのね」
「相当に難しいな」
父は深く考える顔で答えた。
「そこまでなったら」
「人間なら立ち直れるのね」
「そこからな、しかし人間の底を割ってな」
そうしてというのだ。
「畜生道はおろか餓鬼にまでなると」
「畜生道より下だったわね、餓鬼道って」
「ああ、地獄より酷いとも言われてるんだ」
「地獄よりなの」
「そこまで酷くなるとな」
地獄の亡者よりも酷い性根になると、というのだ。事実餓鬼は地獄の亡者よりも浅ましく卑しいものがあるかも知れない。
咲はそう思いつつだ、父に応えた。
「人間餓鬼になったら終わりね」
「ああ、立ち直ることも難しいんだ」
「餓鬼になったままね」
「そこから上がれない、心が腐り過ぎていてな」
「どんな教えをどんな人から教えられても?」
「そうだろうな、心が浅ましく醜くなり過ぎていてな」
その為にというのだ。
「どんな哲学や宗教でもだ」
「どんな素晴らしい人がお話しても」
「届かなくてな」
その教えも言葉もというのだ。
「かえってどうでもいいことにケチをつけてな」
「救われないのね」
「キリスト教だと教会の仕組みがどうとか言ってな」
「聖書の素晴らしさを思わないで」
「それでな」
そのうえでというのだ。
「そうしたことばかり言ってな」
「教えに近付こうとしないのね」
「それで努力することもな」
それもというのだ。
「しないんだ、教えに添って努力しようとかな」
「そうしたら救われるのに」
「そうもしなくてな」
「餓鬼になると救われないのね」
「そうなるだろうな、餓鬼はモコなんかよりよっぽど酷い」
そのモコを見つつ話した。
「モコはいい娘だろ」
「人間でもこんないい娘滅多にいないわよ」
「優しくて人懐っこくて大人しくてな」
「愛嬌もあってね」
「しかも頭がいいな」
「人の言葉もわかるしね」
このことは咲も実感している、一緒にいてだ。
「餓鬼よりよっぽど立派ね」
「人間でもだな」
「そうよね、その餓鬼になったら」
「もう終わりだ」
「私もそうなったらいけないわね」
「そのことは覚えておくんだ」
「そうしていくわ」
今は毛が短くなってすっきりしたモコを見ながら頷いた、ケージの中にいるモコは今も大人しくしている。咲はそんなモコを見なが
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