第五十二話 夏になる前にその十一
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「役者の丹波哲郎さんが部下でな」
「物凄くいじめられたのね」
「階級が下の人には辛くあたってな」
「上の人にはへらへらしたのね」
「周りに人が欲しくてお金や地位を得てもな」
「そんな人しか寄らないのね」
「だから川上さんは評判が悪かったんだ」
人間としての彼はというのだ。
「部隊の中で戦場に出たら後ろから撃てとな」
「言われてたのよね」
「そんな回覧が来たって話もあったんだ」
「それ本当かしら」
「本当かどうか抜きにだ」
「そうしたこと言われる人だったのね」
「川上さんって人はな」
これが事実だったというのだ。
「そこまで評判が悪かったんだ」
「そんな人しか集まらないのね」
「人を集めたくてもな」
「そんな人傍にいても何にもならないわね」
「咲もそう思うな」
「じゃあ人柄を磨いて」
「そうしたらだ」
その時はというのだった。
「心ある人が来てくれるんだ」
「そうなるのね」
「汚物には蠅がたかってだ」
そうなってというのだ。
「花には蝶々が寄るものだ」
「奇麗なものには奇麗なものね」
「そしていい人にはな」
「いい人が来てくれるのね」
「そうだ」
まさにというのだ。
「そうなるからな」
「私も人間性を磨くことね」
「いい人と付き合ってな」
「恋人も旦那様もお友達も」
「付き合う人は皆な」
「お金や権力で選ばないことね」
「そうするんだ、間違っても川上さんみたいな人になるな」
父は強く言った。
「野球選手としてはよかったが」
「それでも人間としては」
「学生時代も巨人の時も一緒だった人のお墓には参っていたがな」
「いい面もあったのね」
「人間ならいい面もあるものだ」
それは絶対だというのだ。
「餓鬼にもなっていないとな」
「いい面もあるのね」
「最低の人間であっても」
例えそうであってもというのだ。
「人間ならだ」
「いい面もあるのね」
「それが全部なくなったのが餓鬼だ」
そう呼ばれる存在だというのだ。
「徹底的に下劣で卑劣で浅ましいな」
「それが餓鬼なのね」
「それで餓鬼になれば」
その時はというのだ。
「もうな」
「人間としてのいい面もなくなるのね」
「そうなるんだ、川上さんはそれでもまだ絆を忘れていなかった」
「一緒だった人のお墓参りをしていたのね」
「そうだったんだ」
川上哲治は最初ピッチャーであり学生時代バッテリーを組んでいた吉原という選手と一緒に巨人に入団したのだ、この吉原は戦死したが彼がいたからこそプロ野球に入られたと言って二人の故郷熊本に帰った時は常に墓参りをしていたのだ。
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