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竜のもうひとつの瞳
第九話
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ら婆娑羅の力を持つ子供を利用して一揆衆を作って、伊達を攻めようとしたし、アンタを化け物扱いもした。
……アンタは鬼じゃないわよ。大体、自分が鬼だなんて本気で思っちゃいないんでしょ?」

 本当に自分が鬼だと思ってるのなら、あんなに悲しそうな顔はしなかっただろう。甘んじて雪玉を食らうことも無かったと思う。
結果的に悪い方向に転がっちゃったけど、いつきちゃんを助けようとした行動だし、もっと言えば奥州を守りたくてやったことだ。
鬼ならそんなことは思わない。

 「俺は」

 すっと小十郎の手が私のおなかに伸びてくる。
ちょっと何処触ってんのよ、と言いたかったけれど、触れられた場所がかつて小十郎が私を刺した場所だったものだから、
ついつい言葉に詰まってしまった。

 私のおなかに残る傷は、かつて狂気に飲み込まれかけて暴走した小十郎がつけたもの。
小十郎の左頬についた傷は、そんな小十郎を止める為に私がつけたもの。
互いに互いの身体を傷つけあって出来てしまったこの傷を、小十郎は酷く気にしている。
受傷した直後に小十郎が酷く混乱してたってのは知ってるし、私が寝込んでる間に小十郎が心配して泣いてたぞ、
なんて政宗様から聞かされた覚えもある。

 「馬鹿ね。いつまで気にしてるの。こんなのとっくに治ってるんだから、気にしなくていいのよ。
大体戦に出ている以上は手傷の一つや二つ負うことくらい覚悟してるんだからさ。
……小十郎、もう自分を傷つけるようなことは止めなさいよ。
アンタが自分は人間じゃないなんてそんなこと考えてると思うと、胸が痛い。
泣きたいんなら泣きなよ。側にいるからさ」

 私の肩に小十郎の頭を押し付ける。ゆっくりと背に回された手は冷たくて、随分と冷えている。
本当に馬鹿な弟で困っちゃうわね。頭がいいくせして、どうして気付けないのかしら。

 こんな私達の様子を見ていたのは、いつの間にか追って来ていた伊達軍の面々といつきちゃんだった。

 やれやれ、ちょっと協力してもらおうかしら。

 「皆、この馬鹿に言ってやれ。自分のこと、人じゃないって言ってんだ」

 私の放った声に小十郎が顔を上げる。そして涙を零さないでいる目のまま驚いた顔で連中を見ていた。

 「兄ちゃんは人間だべ! 本当に鬼だったら、村の子達に囲まれてあんなに優しく笑ったりしねぇだ!
それに、おらの……いや、おら達のことも助けようなんてしねぇだよ!」

 「そうっすよ! 確かに小十郎様、鬼みてぇに怖ぇけど、立派に人間じゃないっすか!」

 「あんな農民達の言葉なんか信じる必要ないっすよ! それに双子だからなんて迷信じゃないっすか!」

 「俺らが戦で勝ちが取れるのも、小十郎様がいるおかげじゃないっすか。ね、筆頭」


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