第2部
スー
精霊の泉
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ともに泉の中に沈んでいった。
いったい私は精霊と何のやり取りをしているのだろう? 不安と疑問でいっぱいの中、私は隣にいるユウリに助けを乞う。だが、当のユウリは私と目があった瞬間、顔を逸らして肩を震わせた。
もしかして、笑ってる?
ルカとのやり取りで少し気が立っていた私は、含み笑いをしている彼に一言文句を言おうと声を上げようとしたのだが、
「ならば、この携帯食料ですか?」
「うわっ!?」
ざばん、と言う水飛沫と共にみたびオルレラが現れ、水を差されてしまう。もういいよと、私はうんざりしながら彼女を見ると、思わずオルレラを二度見してしまった。彼女が今手にしているのは、先ほど私が落とした携帯食料ではないか。
「そっ、そっ、それです!! それ、私のです!!」
すると、無表情だったオルレラの顔が一変して、笑顔に変わった。
「そなたはとても正直な方ですね。では、この携帯食料を受け取りなさい。それと、これは私からのささやかな贈り物です」
オルレラは携帯食料とともに、小さなパンを一つ私に渡した。
「そなたたちの旅の無事を祈っています。では、お気をつけて」
そういうと、オルレラは呆気に取られている私などお構いなしに、自分の用事を済ませた途端、今度こそ光とともに泉の中へと帰っていった。
光が失われ、辺りはすっかり静寂に包まれる。
いまだに状況がうまく飲み込めず、私はただ茫然と携帯食料とパンを手にしたまま、泉を眺めていた。
「……今の、いったい何だったの?」
私は誰にともなくつぶやいた。そして、タイミングを見計らったかのように自分のお腹が鳴った。
ぶはっ!!
後ろでは、こらえきれなかったのか、盛大に噴き出すルカの姿。そして堰を切ったように他の二人も笑いだした。
「ミオ、すごい! あれ、きっとこの泉の精霊! 精霊に会えた人間、他にいない」
「もう! そんなに笑ってたら説得力ないよ!!」
ジョナスが誉めるように言ってくるが、当の私は全然嬉しくない。
あんな美人の精霊が、ひたすら食べ物を持って薦めてくるなんて、神秘的だとか神々しいとか欠片も感じない。むしろこんなに皆に笑われて、いい迷惑だ。
「す……すまない。あまりにもお前と精霊のやり取りが滑稽で、笑いが止まらん……」
普段ほとんど笑わないユウリですら、口許を緩ませている。
「あはははっ!! さすがアネキ、食べ物であんな笑い取れるなんて、アネキぐらいなもんだぜ!」
ルカも涙を浮かべてお腹を抱えており、さっきまでの殺伐とした空気もどこかへ行ってしまった。
「……だったら、今日の見張り三人だけでやってね!」
珍しく私は怒りを露にすると、携帯食を口に入れながらそう言い放ったのだった。
そのあと三人がしばらく私によそよそしくなったのは言うまでもない。
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