第62話 エル=ファシル星域会戦 その6
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うじてということだから、追撃は苛烈を極めたのだろう。同じ場所に隠れている乗員たちの気持ちは察するに余りあるが、斟酌する暇はない。
艦位が安定したとユタン少佐は判断すると、曳航式の超光速通信ブイを打ち上げる。鹵獲した艦で消去されていなかった帝国軍の周波数変異に固定されたそれは、惑星エル=ファシルから盛んに発信されている救援要請を明瞭に傍受できた。
「敵地上軍の司令官は大出力による発信で、アスターテまで届くと考えているのだろうか?」
場合によっては届くかもしれないが、一〇ケ月前に占領したばかりの箇所では、中継増幅衛星の配備は進んでいないだろう。現に幾つかのゲートにあった幾つかの中継衛星は第八七〇九哨戒隊によって粉砕されている。内容もあまり変わらない。『一万隻以上の大艦隊に惑星が包囲されている。軌道兵器もない。至急救援求む』の繰り返しだ。
「実のところ一万隻どころか三〇〇〇隻をようやく越せる程度しかいないわけだが」
「それだけビュコック提督の戦いぶりが圧倒的だったという事でしょう」
「しかしおかげででアスターテやパランティアなどからの増援はなくなった」
そんな大兵力のいるところに、基本防衛戦力である前進部隊を送り込むなど自殺行為。しかも第四次イゼルローン要塞攻略戦の情報はおそらく帝国側に届いているだろうから、前進部隊の目はダゴンやティアマトと言った同盟軍の進撃ルートに向いている。統合作戦本部の戦略眼通りで、謀略するにはまことに都合がいい状況。あまりにも都合が良すぎて、メアリー・スーかと思ってしまうくらい。
「ケース?で行きましょう。ユタン少佐。私は通信室に籠ります。想定外があれば無声表示で」
「承知しました。本隊・別動隊への暗号発信後、当艦も巡航艦ゲーアデン三三号に電子偽装します」
舞台は整った。マーロヴィアからずっと舌下の徒に成り下がっているように思えるが、今の俺は実戦指揮ができる立場でもなければ、その能力もない。今は為すべきことを為すべきだ。ユタン少佐の配慮でもらった個室で、俺は着慣れた同盟軍のジャケットを脱ぎ捨て、ピッチリとした帝国軍准将の軍服に袖を通す。机脇の姿見で、異常がないこと、ウイッグのズレがないことを確認し、改めて襟を締める。同盟軍で閣下呼ばわりされる前に、帝国軍の閣下になるというのも、実に俺らしいのかもしれない。
その姿で個室を出ると、何人かの乗組員とすれ違う。ユタン少佐もお触れを出してくれている上に、過剰に美化して宣伝しているらしく、乗組員の殆どが俺に好意的ではあった。が、やはり帝国軍准将の制服に対するインパクトは大きいようだった。彼ら乗組員の奇異の視線とおっかなびっくりの敬礼に応えつつ、俺は予備通信室に一人で立ち入る。
シナリオは幾つも考えた。艦隊・地上軍双方の情報将校達
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