暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
狙われた天才科学者
百鬼夜行
[4/4]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
めた。


「何れにせよ、ミンスクハイヴの攻略が成された今。米ソの対立構造や、欧州の安全保障環境は変わる」

 戦後30有余年、ソ連隷属下にあった東ドイツは資源・食料を通じてを深くソ連経済圏に依存してきた。
伝統的にドイツは、1871年の帝政時代以降、ロシアとの密接な関係こそが重要。
故にアメリカやECは距離を置くべきだとしてきた。

 親ソ反米は、何も東ドイツばかりではない。西ドイツも似たような考えであった。
彼等の運命は、敗戦の恥辱を受けながら政体を残し君主制を維持出来た日本と違い悲惨であった。
ソ連のシベリア抑留による500万人強の拉致に及ばず、米英占領地で100万人強の喪失……
鉄条網の引かれた荒野に軍事捕虜たちは放置され、飢餓やコロモジラミが媒介する発疹チフスなどの疫病に苦しんだ。
 ドイツ占領軍の対応も不味かった。
書類上にある捕虜の身分を変更し、米軍に責任が及ばぬようにし、食料供給を意図的に減らした。
英仏軍の恒常的な虐待も大きかろう……
 ドイツ国民の中には拭えぬ不信感が醸成されることになった。


 ハンカチで目頭を押さえた後、ユルゲンは立ち上がり、男に深々と頭を下げる。
「では、明日もありますので失礼します……」
「何かあったら俺の所に来い……」
ユルゲンは無言で静かにドアの前に行くと、其のまま部屋を後にした。

男は、立ち去ったユルゲンに呼び掛ける様に、一人呟く。
「俺がお前たちにしてやれることと言ったら、仮初(かりそめ)でもいいから家族の愛を知らせてやりたかったのだよ……。
シュタージに愛を引き裂かれた男に本当の愛をな……」

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ