第二部 1978年
狙われた天才科学者
百鬼夜行
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、我々が生き残る道は選択肢が多い訳ではありませんから……」
男は、ふと冷笑を漏らすと、ユルゲンに皮肉交じりの言葉をかけた。
「君もすっかり、青年将校らしい口の利き方が出来る様になったな……」
男は酔いを醒ます為に、レモネードを一気に呷る。
静かにグラスを置いた後、ユルゲンに訊ねた。
「話は変わるが、アイリスディーナの今後は如何思い描いている……」
奥の方より真新しいグラスを取ると、アイスペールから氷を数個トングで摘まみ、グラスに入れる。
「これは、俺からの提案だ……否なら断っても良い。お前さんとアイリスを俺の猶子にしたい」
男からの提案は、ユルゲンの頭の中を真っ白にさせた。
杯事だけの関係ではなく、息子として取り扱ってくれるという提案に衝撃を受けた。
グラスをユルゲンの方に差し出すと、男は『ルジェ』の『クレーム・ド・カシス』を注いだ。
ユルゲンは、自分が好きな酒の事まで調べていた男の気遣いに心を打たれる。
「ど、どうして、俺を……、これほどまでに特別扱いなさって下さるのですか」
いつの間にか、頬を濡らしていることに驚いた。
男は、30年物のブランデーをグラスに注いだ後、静かに杯を傾けた。
そっと、グラスを置いた後、滔々と語り始めた。
「俺には、前の妻との間に、生きていれば、お前さんと同じくらいの倅が居てな……。
一目見た時から、知らぬ間に、死んだ倅の姿に重ね合わせている自分がいた……。
どうも段々と接している間に、ユルゲン、お前さんの事を他人とは思えなくなってきた」
声を震わせるユルゲンに、男は諭すように語り掛ける。
「アイリスディーナの先々を考えれば、俺の猶子になる事も悪くはあるまい。
アイリスディーナは並の女よりも聡く、そして純粋だ……。
もし君に何かがあった時の為だ。
一人……、この社会で生きる強さを求めるのは、18歳の少女に対しては酷であろう」
「確かに優しい娘ですから……」
「俺が後ろ盾になるから、盤石な相手に嫁がせてやりたい……」
ユルゲンは、男の言葉の端々から政略結婚の意図をくみ取った。
自身が一介の戦術機乗りであったならば、激しく抵抗し拒否したであろう。
しかし今は、支配階層の姻族。
義父アベールや上司シュトラハヴィッツ少将の手助け無くしては容易に事も成せぬ事を実感してきた。
祖国や民族の為にわが身を捨てる覚悟は十分できていたつもりだ。
だが、妹の事となると……
溢れ出る涙を拭うのも忘れ、男の注いだ酒を一気に呷った。
思えば己が夢は、幼い頃より父母の代わりに妹の事を立派に育て上げ、白無垢の花嫁衣装を着せて送り出す事であった。
もしそれがどの様な形で有れ、叶うのならば……。
一種のあきらめに似た感情が彼の心を支配し始
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