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冥王来訪
第二部 1978年
狙われた天才科学者
百鬼夜行
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尋ねた。
「所でつかぬ事を聞くが、アイリスディーナに好いた男など居るのかね」
「私も、義理の娘の事までは詳しく把握していないが……。
護衛に付けているデュルクや他の側衛官からの報告では、その様な話は聞いてないぞ」

男は一頻りタバコを吹かした後、こう告げた。
「男の影はないか」
そう言い放つと静かにグラスを傾ける男に、アベールは問うた。
「急にどうしたのだね……嫁ぎ先でも当てがあるのか」

 
 アベールは、今年19歳になるアイリスディーナの将来をふと思った。
東ドイツの女性の平均結婚年齢は21歳。学生結婚も珍しくなく若い母親も多かった。
国策として出産奨励金を第三子まで2000マルクほど出すのもあろう。
出生数は平均二人で推移し続けた。

 アイリスディーナは、兄ユルゲンの白皙端麗の容姿に劣らず、美貌の持ち主。
白雪を思わせるような透明感がある美肌、金糸の様な髪、サファイヤのごとき眼。
士官学校も女生徒では常に次席をキープし、知性も肉体も申し分ない才色兼備。
そのような彼女であっても欠点はあった。172センチの大柄な背丈……。
 戦前生まれのアベールにとっては、大女の婚姻の大変さは身にしみて判っているつもりであった。
周囲は、間もなく19になろうという彼女が独身で居ることに不安を感じ始めるのも無理は無かろう……
娘ベアトリクスの様に、ユルゲンの様な良き人が見つかって呉れれば違うであろうが……

 ユルゲンの事を息子の様に扱う男の口から出た、アイリスディーナの先行き……
「妙齢のアイリスディーナに、白無垢の花嫁衣装を着せてやりたい」
一女の父であるアベールは、男の言葉をその様に解釈した。

「君がアイリスちゃんの先々を想って行動するのなら、私なりに努力してみようと思う」
静かに酒杯を置いて、男の方を見つめる。
「済まぬな……」
男は右の手で目頭を押さえた侭、アベールへの相槌を返した。




 ユルゲンは宵の口に、義父の私宅を訪ねていた。
いよいよ十数時間後に迫ったソ連政府の『重大発表』の前日。
奥座敷に居たのは、義父と議長だった。
「少し娘と話して来る……」
そう言い残して義父は、部屋を後にした。

 部屋に残された男は開口一番、ユルゲンに問うた。
「明日以降の駐留ソ連軍の扱い……どう考えている」
紫煙を燻らせながら椅子に腰かける男に、ユルゲンは応じた。
「巷で噂されている全軍撤退が事実ならば、宿営地で武装解除して、ロストック港より仕立てた帰国船に乗せるのが、一番安全かと存じますが……」
男は、すっとユルゲンに氷の入ったグラスを差し出す。
「やはり……、そうなるのかね」
ユルゲンは、レモネードの瓶の栓を開けるとゆっくりとグラスに注ぐ。
「現状の我が国の立場では
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