暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第二部 1978年
狙われた天才科学者
百鬼夜行
[1/4]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
東ドイツ・ベルリン



 場所は、ベルリン郊外から少し離れた場所にあるヴァントリッツ。
ここに居並ぶ閑静な邸宅街は、主に東ドイツ政府高官、SED幹部の為の高級住宅街。
その一角にあるアベール・ブレーメの屋敷。

 屋敷の奥にある部屋で、二人の男が酒杯を傾けていた。
紫煙を燻らせながら男は、グラスを傾けるアベール・ブレーメに尋ねた。
「なあ、アベールよ。坊主の留学の話受けるか……」
静かに氷の入ったグラスを置くとシャツ姿のアベールは、面前の男に答えた。
「なぜまたコロンビア大学なのかね……ソ連研究ならワルシャワやわが国でも出来るではないか」

男はタバコを片手に持ち、室内を歩きながら語り始めた。
「援助の見返りという形だが留学を暗に進めて来た。恐らくは……」
「息子と娘を米国に人質に差し出せば、ドイツ国家を安泰させると……」
「ああ、下種なやり方かもしれぬが……。民主共和国には既に対外戦争をやる気力も能力もない」
喉を潤すようにソーダ水で割った酒を、一口含む。

「このまま、東西分裂が続けば、我国のは未来永劫ソ連の肉壁……」
アベールは男の話を聞きながら、右手で眼鏡を持ち上げる
「それはNATOや米国に(おもね)っても同じではないかね」
男は紫煙を吐き出すと、応じた。
「否定はしない。この国が生き残るには西側に入ってショウ・ウインドウになれば良い。
西側の望むは、対ソ防衛の壁であり、戦争リスクをドイツに押し付けて来るであろう。
我が国民は彼等から見返りとしての施し金を受け取り、その益に甘んじればいい。
両者納得の関係……。悪くも無かろう。」


 アベールは、男の一言で酔いが醒めるのを実感した。
1600万人の国を守るために、義子(ぎし)ユルゲンを差し出さざるを得ない。
思えばあの青年は、娘ベアトリクスの為に全てを投げたしてくれた。
宇宙飛行士の夢さえ捨て、戦術機を駆り、BETAやソ連との死闘を繰り広げた。
岳父として、彼の事を守ってやれぬことに、幾ばくかの不甲斐無さを感じていた。

 アベールは男から注がれる酒を注視しながら、答えた。
「ユルゲン君と言う男は、ドイツ一国で収まる人物ではないと思っていたが……」
男は、氷で満たされた自分のグラスに並々と酒を注ぐ。
「米ソ両国から注目されるとは思わなんだ。俺も奴には武者修行をしてきて欲しいと思ってたが……」
男は心苦しそうな顔をして、アベールの方を向いた。

「良い機会ではないのか……。二人とも新婚旅行にも行けてはいないのだし……」
その言葉に男は、相好を崩す。
「貴様も柄にもなく、父親らしい事を言うのだな」
「君が言うのかね……」
アベールは、ふと冷笑を漏らした。

 男は再び思いつめたような顔をして、アベールに
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ