埋まらない溝
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は、こんなヤツが切嗣だなんて認めない。見た目の問題じゃない。身に纏った、妙に使い古したコートもどうでもいい。そんなことじゃない。
確かに、アイツも死んだような目をしていた。だが、切嗣は優しかった。そこに居るだけで、周りの人を和ませる位、優しい雰囲気を感じられた。まかり間違ってもこんな、
冷たい殺意を振り撒くような奴じゃなかった。
だから「自分は衛宮切嗣ではない」と否定して欲しかった。
しかしソイツは俺の質問に答える事なく、あの黒い泥に向かって行った。
そして、
ぞぶり
そんな醜悪な音をたてながら汚泥に手を突っ込んだ。
「うっ……ぐぅ……」
顔も歪めながらも何かを掴むように、手を動かし
「あ、あああああぁぁぁぁぁ!!」
その手を引き抜いた。
そこには、セシリアの腕が捕まれていた。
「く……」
汚泥からセシリアがでた瞬間、それは、さっきまでの存在感が幻だったかのように消え去った。
「せ、セシリア……」
何とか這って彼女の元まで行く。
セシリアは無事なのか……
ただ、それだけが知りたくて這う。
「……て」
「!セシリア!!」
今、セシリアが口を動かした。良かった。セシリアは無事だ。
その時、俺は勘違いしてしまった。彼女は全然無事でないことに。
「殺して」
瞬間、俺の体が氷ついた。
―今、何と言った?―
だが、次の切嗣の行動で動かざるを得なくなった。
セシリアを横たえると、立ち上がり銃口を彼女の腹に向けた。
「や、止め……」
本能的に切嗣が次にとる行動を理解してしまい、制止の声を挙げるが……
パンッ
乾いた音と共に、セシリアの体から紅いモノが飛び出した。
side ?
「う〜ん。失敗だったかしらね」
暗い部屋に女性の声が響く。部屋には幾つもの機材があり、その中の一つにパソコンがあった。
「もともと情報の断片の更に劣化版ですから、しょうがないと言えばしょうがないですが……」
パソコンに映る映像を見ながら喋る女性。
「何の話?」
独り言を喋る女性に、別の声がかかる。
「ええ。貴女が回収した『あれ』の模造品(失敗作)の事ですよ」
そう言いと、パソコンの画面を見るように促す。
そこには、セシリアの傷口に手を当て、何か呟いている切嗣がいた。
「幾ら失敗作とは言え、依り代を失った途端崩壊する上に、一介の魔術師程度の魔力で洗い流されるようでは……」
目頭を押さえ、やれやれと呟く。
「ごめんなさいね。わざわざ貴女に回収して貰ったのに、芳しい成果を挙げられなくて」
そう目の前にいる人物の頭を撫でる。
「別に良いよ。もっと面白いモノが見れたし」
ん?と可愛らしく呟き、改めてパソコンの映像に目を向ける。そこには、
雪片弐型を衛宮切嗣に向ける織斑一夏の姿があった。
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