失恋する姉
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涼しい鳥の鳴き声。綺麗な朝露。濡れた緑の木々。清々しい朝。あたしはうーんっと背伸びをした。窓を大きく開ければ、冷たい風が寝起きの頬を引き締める。
幸先いいわ。うん、うん。良いに決まってるわよね!
なんてったって今日は、あの、レアンオン兄さまが、帰ってくる日なんだから!
あたしは勢いよく階段を駆け降りた。騒がしい弟たちの声も、今日は都の楽団が奏でる音楽のよう、なんて浮かれすぎ?
「おはよう!」
みんなから口々に朝の挨拶が返るけど、あたしがいちばん元気。
「サラ。今日は早いねぇ」
なんて、恰幅のいい母さんが、7つ上のミシェル兄さんと、5つ下の弟のオーラの間にひしゃげた木の皿を置く。あたしのお皿だ。
あたしは席に着く前に、後ろからミシェル兄さんに飛びついてサービスにほっぺにキスしてあげた。
食事中だったミシェル兄さんはいきなりのことに盛大に噎せている。
なによ、失礼ね。あたしという愛らしい妹からのキスよキス。涙を流して喜ぶところでしょうここは。
まぁ、いいわ。今日のあたしは最高に気分がいいですからね。
ああ、太陽さん、こんにちは!今日も一日、がんばりましょうね、うふ。
世界中の人に投げキッスを配りたい気分であたしは席に着いた。
いや、着こうとした。
しかしその時、あたしの態度を訝しげにしていた母さんが、ピンときたとでも言うようににこにこと口を開いたのだ。
「ははぁ、サラ、あんた聞いたんだね?でも正直、意外だねぇ。昔っからあんたは隣のレアンオンと結婚するとか言ってたから、てっきり泣いて布団から出てこないと思ってたんだけどねぇ。でもあんたも慕ってたレアンオンの結婚でそこまで喜べるなんて、大人になったんだねぇ。レアンオンもここに腰を落ち着けるっていうし、賑やかになっていいねぇ」
ガタン、と椅子が倒れた。わたしの椅子だ。一番上のゾル兄さんが作ってくれた、椅子。
「けっ、けけけっけ、けけけけけけっけっけっけ…」
動揺しすぎて、変な妖怪みたいに、言葉が「け」しか出てこない。
けっ、けっ、結婚ですって!?
あの場で、泡を吹いて倒れなかったことを褒めてほしい。
結婚と聞いて、「え、あたしと?」なんて間抜けな考えが浮かんだのも一瞬だけで、あとはもうもう、怒涛のような悲しみの嵐だった。
物置から、ほこり臭い鞄をずるずると取り出す。亡くなった父さんのものだ。男ものだから重い、が仕方ない。
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