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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第61話 エル=ファシル星域会戦 その5
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 面倒くさいというわけではなく、ちゃんと根拠立てて陸戦のお手伝いをすることに不満の意思を隠さない第三四九独立機動部隊の参謀達を納得させろということだろう。アムリッツアで僅かに画面に映った淡い栗毛色の髪をした先任参謀……まだ髭は生えていないフルマー中佐はどうやら陸戦士官に含みがあるのか、鉄面皮で口を開くことなく眼球だけでジャワフ少佐を睨んでいる。だが何とか納得してもらう為にも、舌下の徒になるしかない。俺は空咳をしてから、アップルトン准将に言った。

「エル・ファシル星系は失われて既に一〇ヶ月になります」
「無論、承知している」
「エル・ファシル星系の総所得は統計のある昨年度で三〇四四億ディナールになります」

 金の問題ではない、とは流石にここにいる誰も言わない。もしアップルトン准将の言うように極低周波ミサイルを撃ち込めば、帝国軍は掃滅できるかもしれないが同時に残されるインフラ設備も失う。復興させるためにもただでさえ厳しい国家予算からやり繰りしなければならない。その程度の計算ができない参謀など、この世界のどこにもいない。

 もしインフラ設備がそれなりの状態で保持できるのであれば、ハイネセンに避難しているエル・ファシルの住人が戻れば直ぐにでも経済活動が再開できる。それにより税収が上がる。〇から一を作るより、一から三を作る方がはるかに楽なのはいつの世も変わらない。

「……既に我々は制宙権を確保している。地上戦も腰を据えて行えばいいのではないか?」

 地上戦部隊が宇宙艦隊を使って楽をしようとしているのは気に食わない、というフルマー中佐の裏言葉を俺は十分すぎるほど理解できる。危ない橋をなんで宇宙艦隊だけが渡らねばならないのか。地上軍も相応に仕事を果たせというわけだ。だが、それに俺は同意できない。

「地上軍将兵とて人間です」
「……当然だ」
「戦闘すれば犠牲者は出ます」
「それは……貴官の言う通りだが」
「戦闘しなければ死なずにすみます」
「……ボロディン少佐は、平和主義者なのかね?」

 軽い嫌味のつもりでフルマー中佐は言ったのだろう。階級が高い故に口を滑らしたのかもしれない。だが許容範囲以上の仕事を押し付けられている俺の血圧を上げるには十分な挑発だ。一〇秒ほど目を閉じてから、俺は中佐の眼を、湿度を充分に含めてから睨みつけて言った。

「勿論平和主義者です。ついでに申し上げれば人道主義者でもあり、それを誇りとしております」
「な!?」
「君の負けだよ、フルマー中佐。相手が悪かったな」

 喧嘩腰になりそうなフルマー中佐をあっさりと一言でアップルトン准将は抑えると、准将は口だけの笑みを浮かべて俺に言った。

「エル・ファシルに巣食う帝国軍人すら救おうというのだから、君のお人好しさにはほとほと頭が下がるよ
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