第61話 エル=ファシル星域会戦 その5
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。その視線に気が付いた爺様は黙って目を瞑ると腕を組んだまま椅子の背を大きく揺らした。
これは爺様の長考の兆しだ。心の中では結論は出ているが、それに対するリスクを計算している。ジャワフ少佐を加えた第四四高速機動集団司令部が、じっと爺様の口が開くのを待つこと約三分。どんぐりのような爺様の目が音を立てたかように見開いた。
「ジュニア」
「ハッ」
「儂はタダで仕事をするつもりはないぞ」
「星系防衛戦闘の実地演習として最適の舞台であると考えます」
「何隻必要じゃ?」
「大気圏降下が可能なレベルの帝国巡航艦を三〇隻。残存する自力航行可能な戦闘艦艇は全て自動操縦状態にして頂きたく存じます」
俺の答えに爺様は無言で視線を動かすと、眉間に皺を寄せ渋い顔のカステル中佐が応える。
「……帝国軍約四万人の命がかかってますからな。演習経費はともかく、キベロンまで引っ張っていく船の数が減るなら補給部としては結構なことです」
それに応えるように爺様は、今度は視線を反対側に動かす。その先には人の悪い苦笑を浮かべたモンティージャ中佐がいる。
「ボロディン少佐の敵味方を超えた人道的な優しさに、小官は感動を堪えきれません。四〇隻分の帝国語に堪能な乗組員の編成一切は小官にお任せを」
そして爺様は俺の横に立つジャワフ少佐に、鋭い視線を向けて言った。
「ジャワフ少佐、そういうことじゃ。貴官にも存分に働いてもらいたい」
「ありがとうございます。陸戦司令部総員に代わり、御礼申し上げます」
「ジュニア」
「ハッ」
「儂らに襲い掛かってくる不逞な『帝国軍救援部隊』の先任指揮官は誰が良い?」
拿捕し手元にあって動かせる帝国軍艦艇は三〇〇隻に満たない。帝国軍がエル・ファシルの地上部隊を救助すると見せかけるためには、それなりの戦力を動員するように見せなくてはいけないが、単純に数が足りない。演習における『敵役』として惑星エル・ファシルの識別探知内で行動できるだけの戦力、その指揮官には爺様に匹敵するであろう戦術能力のある指揮官が必要だ。それができるのは……
「第三四九独立機動部隊のネイサン=アップルトン准将閣下にお願いいたしたく存じます」
◆
「つまり私は帝国軍の救出部隊指揮官として、実働の帝国艦隊を送り込むに際して味方と砲火を交えるふりをしろ、ということかね?」
戦艦「カンバーランド」の司令艦橋で、未熟でありつつも突き抜けた見解を述べる学生に、面白いことを言うなぁ〜と感心半分呆れ半分といった教授の表情で、アップルトン准将は再度確かめるように俺に言った。
「そこまで帝国軍に寛大である必要はないと私は思う。降伏勧告後に極低周波ミサイルの三ダースばかり地表に撃ち込めばすっきり解決すると思うが、ボロディン少佐。どうだろうか?」
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