第二部 1978年
ソ連の長い手
牙城 その4
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5月1日 ハンブルグ 10時
暗殺者の襲撃後、再び総領事館に呼び戻されたマサキ達
領事館員等の相談を、別室で待機していた
25口径の自動拳銃を徐に取り出すと、トレンチコート姿の男に向ける
紫煙を燻らせながら、面前の男に尋ねた
「貴様の本当の名前を聞かせてもらおうか」
男は不敵の笑みを浮かべ、立ち尽くす
オーバーコートのマフポケットより両腕を出すと、力なく下げる
左手で、ゆっくりと遊底を引き下げる
「ナイフやポケットピストルを隠し持ってるのは、分かっている……。
ゆっくり、捨てろ」
観念したかのように、掌を開く
真鍮とプラスチックで作られた柄の折り畳みナイフが、床に落ちる
「BUCKのレンジャーナイフか……」
「いやはや、私にここまでさせる男は君が初めてだよ。木原君。
本日は特別サービスだ……」
用心金より、引き金へ食指を動かす
「勿体ぶらず、さっさと言え」
彼が銃を向け、急かしてもなお男は平然としていた
静かな室内に冷笑する声が響く
「聞けば、必ず答えが返ってくると思っているのかね」
男の言葉に、彼は笑い返す
「全くふざけた男だ……、鎧衣左近」
絶句した男は、彼を凝視する
目を見開き、身動ぎせず、その場に立ち尽くす
「如何やら図星の様だな……。
幾ら田舎の諜報組織とはいえ、シュタージにはKGBが後ろについている」
右の食指を用心金に移動させる
「奴等を甘く見ていると、痛い目に遭うぞ……」
彼はそう言うと、在りし日の事を思い起こした
前世において、秘密結社・鉄甲龍を立ち上げた時、一番気を使ったのは情報機関の潜入であった
彼が八卦ロボを建造するまで、ロボット兵器の存在しなかった前世
その世界に在って、核戦力並みの超兵器の存在
常に情報機関の接触に怯える暮らしでもあった
内訌の末、日本政府に頼った彼は結果的に落命する事にはなった
皮肉なことに、その秘密は、彼の死によって守られる結末を迎える
「どの様に知り得たのかね……」
男は見た事のない様な表情で、尋ねて来る
「必要な情報の入手と解析……、これが出来なくては科学者というのは務まらぬのさ」
マサキは、ソ連大使館や国家保安省本部より入手していた情報から男の名前を割り出していた
男の名前は、鎧衣 左近
商人に偽装し、各国に潜入する工作員
情報省外事部に籍を置く人間という所まで把握済みであった
その様にしていると、ドアをノックする音が聞こえる
身動ぎせず、声だけで応じた
「取り込み中だ。誰か知らんが……」
ドア越しに声が掛かる
「氷室です」
「美久、後にしろ」
一瞬、顔をドアの方に向ける
其の隙を突き、男は飛び掛かる
あっという間に彼の右手
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