第三章
[8]前話
「そしてだ」
「そのうえで、ですか」
「最期を迎えたい」
「そうなのですね」
「そうだ、さてこの首誰が落としてくれるか」
自分の首に手も当ててこうも言った、この時から暫くして彼は自分を護っていた兵達に背かれ首を落とされるのではなく縊られてだった。
そのうえで世を去った、その後は唐が国を統一したが。
二代皇帝となった李世民後に唐の太宗として知られることになる彼は楊勇の皇帝としての廟号を煬帝という非常に悪いものにしたうえで彼の詩を詠んで言った。
「実にいい詩だ」
「はい、煬帝の詩はまことによいものです」
「江南を詠ったそれは」
「非常にいいです」
廷臣達もその通りだと答えた。
「それはです」
「少なくとも詩としての才はありました」
「そう言うしかありません」
「その通りだ、その政は実に酷いものだったが」
それでもというのだ。
「詩はいい、朕もそのことは認める」
「煬帝は皇帝になり長安にいるべきではありませんでした」
ここで重臣の一人であり常に李世民を諫める魏徴が言ってきた。
「それよりもです」
「王の位のままでか」
「江南に移ってです」
「そうしてだな」
「詩を詠いそこで暮らすべきでした」
「そうすれば国は乱れずだな」
「隋は滅びませんでした、そして煬帝自身もです」
魏徴はさらに話した。
「詩人としてのみです」
「名を遺したか」
「暴君としてでなく」
「それが誰にもよかったのだな」
「世にはその職に就くべきでない者もいます」
「煬帝がまさにそうだな」
「そうでした、治める才よりもです」
皇帝としてのそれ以上にというのだ。
「贅に溺れかつそのすべきことをいざとなれば投げ出す」
「そうした気質であったからな」
「皇帝ではありませんでした」
「だからただ詩を詠むべきであったか」
「それが煬帝にとってはよかったのです」
こう言うのだった、そして李世民は魏徴のその言葉に頷いた。彼が謡ったその素晴らしい詩を詠みながら。
詩人皇帝 完
2021・12・13
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