第三章
[8]前話
「天界の食事だ」
「それを口にすると神になりますね」
「やはり知っているな」
「はい、私は人間でいたいのです」
アダパはまた答えた。
「そうなのです」
「やがて死ぬのにか」
「それでもです」
アダパの返事は変わらなかった。
「私はこのままでいいです」
「人間のままでか」
「是非」
「死んでもいいのだな」
「人間でいたいです」
「わからぬ」
アヌはアダパの言葉をここまで聞いて首を傾げさせて述べた。
「そなたの考えは。だが」
「はい、私の考えは申し上げた通りです」
「変わらぬか」
「気持ちだけ受け取らせてもらいます」
「そこまで言うならいい」
アヌもこれ以上申し出ることは止めた、そうして彼に告げた。
「帰るがいい、そして人間として生きて死ぬのだ」
「その様に」
アダパは謙虚に応えた、それはまさに人が神に対する態度であった。
アダパは天空の宮殿を後にしてそうしてだった。
エアの下に帰った、エアは彼の無事を喜んだが彼にどうかという顔で述べた。
「人間だからか」
「はい、人の中にいることが出来て」
ソウシテトダ、アダパはエアに答えた。
「人を導くことが出来てです」
「人を愛することが出来るからだな」
「はい」
だからこそというのだ。
「私はです」
「天界のものを口にしないと決めてだな」
「実際にそうしました」
「そして人間のままでいるのだな」
「そうしています」
「そうか、人間だからか」
「同じ人間を導け愛することが出来ます」
こう言うのだった。
「その中にいられて」
「そうか、ではこれからもだな」
「私はです」
「人間としてそうしていくな」
「そうしていきます」
この考えは変わらなかった。
「まことに」
「そうなのだな、私はそなたを生み出してよかった」
エアは彼の話をここまで聞いて心からこう思った。
「実にな」
「そう言って頂けますか」
「そなたの心の素晴らしさ、人間への想いと愛情がわかり」
そうしてというのだ。
「人間というものを知ることが出来たからな」
「だからです」
「よかった、ではこれからも人間としてだな」
「生きて」
アダパは毅然として答えた。
「彼等の中にいて」
「導いていくな」
「そうしていきます」
愛情を以てというのだ。
「何があっても」
「では頼むぞ」
「そうしていきます」
確かな声で言ってだった。
アダパは人間の中に入っていった、そのうえでだった。
彼は死ぬまで人間を導いていった、そうして人間達は彼から多くのものを教えて授けられて栄えていった。人間の曙の頃の話である。
死んでこそ 完
2021・12・18
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