第二部 1978年
ソ連の長い手
欺瞞 その4
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「たった一人の人間……、
それも黄猿にドイツの組織を潰され、おめおめと逃げ帰ってきた」
窓辺より、ハバロフスク市街の景色を眺めながら、KGB長官は応じた
「それで済むのかね」
釈明の機会が与えられた男は、グルジア訛りの強いロシア語で返す
「申し訳無え話です、長官」
男は東欧KGBの諜報責任者で、表の肩書はドイツ民主共和国駐箚大使でもあった
「しかし、東西ドイツでの工作は多大な益を党に齎しました……。
投入した工作員の秘密組織網、BETA侵略に遭っても健在です」
額から流れ出る汗を、懸命に拭き取る
「東欧から引き揚げても、良い頃合いじゃねえんですかねぇ」
彼の方を振り向くと、グルジア語で返した
「その、木原という男を抹殺して居たら、お前さんはソビエトへ帰って来れたかい」
木原マサキ誘拐事件
当該事件は、結末から言えば国際関係に多大な影響を及ぼした
チェコスロバキアやポーランドは表立って外交官追放という形で、反ソの姿勢を内外に示すという行動に出る
ハンガリーに在っては外交使節団の追放ばかりではなく、ハバロフスクに対し、最後通牒とばかりに大使館を引き上げてしまったのだ
もっとも、駐留ソ連軍が、ベルリンで行動しなかった事も影響があろう
赤軍とKGBの亀裂は、この事件を結果として日に日に増していった
暫しの沈黙の後、長官は何時もの如くロシア語で応じた
訛りの無い流暢な発言で、話す
「国外のドイツでは、貴様がKGBのトップだが、ソビエト国内では違う。
ただの末端にしか過ぎぬのだよ」
再び、正面の窓を見据える
「帰って来ぬであろうな」
後ろ手に腕を組んで、背を伸ばす
「常々、私に話してくれたではないか……。
戦争というのは負けたら御終いだと言う事を」
ちらりと、顔を背ける
「露日戦争の結末がどうであったか、憶えているかね」
正面から振り返り、男の方に体を向ける
「君の様な敗北主義者……、東欧諜報責任者の地位は、後進に道を譲り給え」
「お待ち下せえ、ア、アニキ」
額に青筋を張って、言い放つ
「内務人民委員会以来の同輩の仲、今日限りだ」
1930年代のNKVD以来の老チェキストを冷たくあしらう
男の運命は既に決まってしまった
「今一度、機会を頂けねえでしょうか……」
それでも猶、一縷の望みをかけて懇願した
「必ず木原を抹殺して、東欧の組織を立て直して見せます」
静かにドアが開く
振り返ると、彼に自動拳銃を向けて立つ数人の男達が居た
「き、貴様!」
消音装置の付いたマカロフ自動拳銃を男の面前に突き出す
「貴様呼ばわりは無えだろう、俺はKGB第一総局長だ……
その俺が、あ
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