第八十五話
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じゃ、嫁なんかなれないもんな。……そうだ、俺が嫁に貰うってのはどうだ?
俺は、景継のこと好きだし、アイツが嫁なら大歓迎だし」
「好き……?」
小十郎が政宗様の言葉に、ゆっくりと視線を向ける。
「そうだ、俺は景継が好きだからな! 恋、って言うんだろ? そういうの」
恋、なんてませたことを言って何処か得意げな政宗様に、小十郎の瞳が揺れる。
「『恋……か、そうか……。恋なら……許される、か?』」
正気を失っているような小十郎の瞳が、更に翳った。
「『俺は、姉上に恋をしている……姉に恋するなんて、許されない……だから、離れなければならない……』」
暗い表情の小十郎の肩を、政宗様がバシッと叩く。
「大丈夫だって。心配すんなよ、俺がきちんと景継の面倒みてやっからさ。だから、鬼みてぇに普段怖い奴がこれくらいで泣くなよ」
左目から零れた涙に、小十郎は気付いていないようだった。
ただ、涙ばかりを左目から零しているその姿は本当に痛々しくて、この時にこんな泣かせ方をしていたのだと思うと酷く胸が痛む。
多分、政宗様は小十郎を宥めるために言ったんだと思う。
けど、この時の小十郎にはそれが正しく伝わらなかったのだろう。
「『……もう、俺は二度と泣かない……、誰が傷ついても、死んでも……俺は涙を零さない……泣く資格が、俺にはない……
俺はただ、忠義を尽くしてこの方の為だけに生きていこう……それだけが、俺が生きる意味だから……』」
暗示のように呟かれた心の声に、何も言うことなど出来なかった。
政宗様の隣にいる小十郎は、酷く弱々しくて今にも壊れそうだったから。
これが、小十郎が私に恋をした理由……? 泣かないと決めた理由?
まさか、あの子が政宗様にべったりくっ付いてるのって、根底にこれがあったから?
「止めろ!! 止めてくれ!! そんなもん、俺に見せるな……思い出させてくれるな!!」
悲鳴にも似た小十郎の声に、誰も何も言うことが出来なかった。
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