第八十五話
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ろで、小十郎がゆっくりと私を見る。血に染まったその姿は恐ろしくて、狂人のようだと思った覚えがある。
「姉上……人は案外簡単に死ぬのですね。……どうして、昔あれほどまでに耐えていたのでしょう。
とっとと殺してしまえば良かったのに」
くつくつと笑う小十郎の目に正気の色はない。舞台の私もここにいる私も眉を顰めてそれを見ている。
舞台の私が刀を抜いて、小十郎に切っ先を向けた。小十郎は躊躇うことなく私に殺気を遠慮なく叩き付けてくる。
しばらく舞台上で激しい攻防が繰り広げられ、この光景を見た自軍の兵達が止めに現れるが割って入れるほどの状況ではない。
そりゃそうだ、片倉小十郎が揃って剣交えてるんだもん、立ち入る隙なんかないよ。モブにさ。
勝敗がつく時は一瞬で、小十郎の剣が私の腹を抉る。私もまた刀を振り上げて小十郎の左頬を裂いた。
痛みにかこの現状にかは分からないけれど、小十郎の目に正気が戻り、次第に怯えた表情に変わっていく。
「……バーカ、後で説教だから、ね」
そのまま倒れた私を周りの兵達が駆け寄って必死で呼びかけている。
小十郎は刀を落として、自分の頭を抱えていた。混乱しきって上げた悲鳴が、痛々しくこだましていた。
場面がまた変わって、今度は城の一室になった。
今与えられている部屋よりも狭いそこは、まだ小十郎が傳役に就いたばかりの頃に使っていた部屋だ。
「『何てことを……よりにもよって、姉上を刺すなんて……』」
膝を抱えて身体を震わせる小十郎の顔には包帯が巻かれている。
表情は未だ混乱しきっているといった様子がしっかりと出ていて、時折頭を抱えて顔を自分の膝に埋めている。
「『またいつか、俺が狂いだして姉上に剣を向けることになったら……きっと姉上を殺しちまう……。
離れなけりゃならねぇ……、殺したくない、俺は……姉上だけは、殺したくは……』」
「『離れる理由を作らなけりゃ……殺したくないから、なんて理由じゃ、姉上が知ったら自分から近づいてくる……
それじゃ、困る……尤もらしい理由を、離れる理由が欲しい』」
部屋の戸を開けて入って来たのは、元服前の小さな政宗様だ。一人で身を震わせる小十郎に近づいて、その身体を揺すっている。
「小十郎、景継なら大丈夫だ! 意識も戻ったし、命にも別状は無いってよ!」
確か、政宗様には小十郎が私を刺した、ということは伝えていなかったはずだ。
小十郎が私を刺した、なんてショックを与えないようにする為に伏せたと思うんだけど……。
舞台上の政宗様が小十郎の隣に座る。
「でも、身体に傷は残るんだって言ってた。……アイツも今は男みたいなことやってるけど、いつかは旦那を持たないといけないだろ?
身体に傷があるん
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