第三章
[8]前話
「のっぺらぼうもね」
「目がなくてもなの」
「そうなの」
「のっぺらぼうは匂いも嗅げるし食べられるしね」
鼻も口もないがというのだ。
「そこは安心していいよ」
「それは不思議ね」
「どうもね」
「妖怪は人間と違うからね。まあ兎に角お歯黒のことは安心してね」
そうしてというのだ。
「そしてね」
「塗ってお芝居に出ればいいのね」
「そうなのね」
「そうだよ、あと何を買うんだい?」
店の仕事のこともした、そしてだった。
二人は買いたいものを買ってそのうえで店を後にした、するとだった。
珠希の兄がこう言ってきた。
「妖怪さんと話してたか」
「お兄ちゃん知ってたの」
「このお店のこと」
「ああ、知ってる人は知ってるからな」
二人に素っ気ない調子で答えた。
「だからな」
「それでなの」
「今もそう言うんですね」
「そうだよ、じゃあ買うものも買ったしな」
軽い声で言うのだった。
「絢音ちゃんの家に行こうか」
「そうね、じゃあね」
「お願いします」
二人でこう話してだった。
そうして絢音の家に向かった、それで彼女を家まで送ったが。
舞台の時にだ、二人は着物を着てだった。
口にお歯黒を塗ってだ、こう話した。
「別に何ともないわね」
「そうよね」
「お口に塗っても」
「それでもね」
実際にそうしたがというのだ。
「まずくないわね」
「妖怪さんはそう言ってたけれど」
「別にね」
「味しないわ」
「昔はまずかったらしいけれど」
それでもというのだ。
「今はね」
「別によね」
「何の味もしなくて」
「普通ね」
「むしろ普段は白い歯が黒くなって」
「面白いわね」
「そうよね」
二人で笑ってこんなことを話した。
「これいいかも」
「お公家さんの役もいいわよね」
「お公家さんもお歯黒塗るしね」
「それじゃあね」
「時々でもね」
「舞台でね」
こうした話をしてだった。
二人は笑い合った、そのうえで舞台に出るのであった。
大阪のお歯黒べったり 完
2022・4・28
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