第三章
[8]前話
ブラジルのサンタカタリーナにあるラスカルド病院に医師として勤務しているロベルト=イマイ日系人で黒い癖のある髪の毛に一七〇程のすらりとした身体に面長で整った若々しい顔立ちの彼は病院のスタッフ達に話した。顔は若いがもう四十代後半である。
「うちと同じかもな」
「そうですね」
「こうした話はペルーにもあるんですね」
「あちらにも」
「犬が飼い主を待っていることは」
「そうだな、ネガオはな」
ここでだった、イマイは。
病院の玄関の方を見た、そこにはだ。
黒い毛で腹は白く耳は折れている痩せた犬がいた、雄犬であるが彼はその彼を悲しいがいとおし気に見て周りに話した。
「立派だよな」
「全くですね」
「今も飼い主を待っているなんて」
「ホームレスだったあの人を」
「今もそうしているなんて」
「この病院で亡くなったがな」
イマイはこのことを苦い顔で話した。
「しかしな」
「それでもですね」
「ああしてですね」
「今も待っていますね」
「きっと退院してくれると信じて」
「そのうえで」
「そうだよ、人間なんてな」
イマイは難しい顔で話した。
「簡単に見捨てるものだけれどな」
「犬は違いますね」
「飼い主をずっと待ちますね」
「家族を」
「だからあの子も」
そのネガオを見て話した。
「ああしてだ」
「今も待っていますね」
「亡くなった飼い主が戻って来ることを信じて」
「そうして」
「飼い主が担ぎ込まれた救急車を見れば」
その時はというのだ。
「ペルーの話と同じ様に」
「駆け寄って」
「そうして飼い主を迎えようとしますね」
「そうしていますね」
「いつもな、立派な子だよ」
ネガオに深い慈しみを向けて語った。
「だから僕達は」
「はい、彼の気が済むまで」
「その時までですね」
「世話をしますね」
「そうしよう」
こう言ってだった。
イマイは時間を見た、するとネガオにご飯をあげる時間で。
ネガオにご飯をあげた、そうして優しい声をかけた。
「ずっとここにいていいからな」
「ワン・・・・・・」
「診察もご飯も家もある、僕達はずっと君の味方だよ」
今も飼い主を待つ彼に語った、そうして彼の頭を撫でて彼にもペルーの彼にも幸福が来ることを願った。
ずっと飼い主を待って 完
2022・4・28
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