第二部 1978年
ソ連の長い手
欺瞞 その3
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マサキは、日本総領事館の手配した車に乗ってハンブルグよりボンに向かっていた
「情報によれば、ソ連指導部は君を招聘したそうじゃないか」
左隣に居る男は、瞑想している彼の方を向く
その声に気付いた彼は、一瞬顔を傾けた後、正面を見据える
「別に構わないさ。
俺は奴等に向かって、ピストルを撃つのだからな」
そういうと、回転拳銃を取り出し、彼の面前に向ける
ドブネズミ色の背広姿の男は、彼の行動に驚愕する
「その弾には、空洞加工が入っている」
ホローポイント(hollow point)
弾頭を擂鉢状に加工し、人体に命中すると、茸状に変形、径が大きくなる
先端部が運動エネルギーを、効率よく目標に伝達して重症を与えるとされる弾丸
それを、彼は用意していたのだ
「今回の話が、嘘か誠か。確かめに行くのではない」
男は、被っている中折帽の頭頂部を掴む
「殺しに行くのさ……、ソ連指導部を」
不敵の笑みを浮かべる
「共産党指導部という頭が消し飛べば、ソ連という体は死ぬ」
彼の発言に車中は凍り付いた
「本当の悪人と取られかねない発言をするとは、意外だね」
スナップ・ブリムの帽子を持ち上げ、彼に見せつけた
脱帽して、降参の意思を示す
それを見て納得したかのように、一頻り哄笑する
「俺はもとより善人などではない……」
拳銃を懐中に仕舞うと、タバコの箱を取り出す
『ホープ』の紙箱より紙巻きたばこを抜き、火を点ける
「この世界の文明程度であれば、BETAへの対抗は苦慮するであろう……。
それ故、ソ連がこの俺の力を求めているのは分かる」
セミアメリカンブレンドのタバコ葉の味わいを感じながら、紫煙を燻らせる
「もっとも、俺を一度ならず殺そうとしようとした相手とは話し合いなど出来ぬ」
蜂蜜風の味付けを愉しみ乍ら、悠々と吹かす
「間違ってはいなかろう……」
そう言うと、面前に紫煙を吹きかけた
「ほう、君なりのソ連政府への答えかね」
冷笑する男の顔を一瞥する
「好きにしろ」
そう言うと、再び瞑想の世界に戻った
日本京都
ミラ・ブリッジスの下に、段ボール数箱に及ぶ国際郵便が届いた
差出人はハンブルグの日本総領事館で、中には数十冊に及ぶドイツ語の文書
その他には、食べきれぬ量のグミキャンデーとクマのぬいぐるみ
外遊中の夫からの細やかな贈り物に感に堪えない面持ちになる
?然と落涙する様を見た女中から心配されるほどであった
異国の貴公子に見初められ、輿入れして半年余り……
寂寞の情を催す事は今に始まった事ではないが、この贈り物を目の前にしてより強く感じる
ただ待つ事しか出来ぬ事に焦りを感じた
翌日、帝都城
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