第二部 1978年
ソ連の長い手
欺瞞 その3
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に濃紺の色無地を纏った白皙の美女が参上した
女は、篁夫人のミラ・ブリッジスで、文書を下げて登城したのだ
一時騒然となるも、山吹の衣を許された名家の関係者
無下に扱うことも出来ぬ為、奥御殿に呼ばれた
関係者は、彼女に真意を訪ねた
尋問ではなく、茶飲み話と言う事で、聞き出した話は以下の様な物であった
夫、篁祐唯からの贈り物の中にドイツ語の文書が大量にあって、対応に苦慮した
その相談の為に、城内省の武家の風紀を扱う部局に尋ねたと言う
事情を知らぬ警備関係者と悶着があったことを謝罪し、彼女は帰宅の途に就いた
持ち込まれた文書はドイツ語でタイプ打ちされており、形式から東ドイツの物であることが判明した
住所氏名のほかに職業や血液型、個人的な政治信条や指向まで記されていた
内容から類推するに、国家保安省秘蔵の個人情報資料
あの悪名高い『シュタージファイル』という結論に至った
事情を精査した後、彼等は動く
帝国陸海軍や外務省関係者まで呼んで、翻訳作業に取り掛かる準備をする
一か月程で仮翻訳を済ませることを目標に、その日より情報省内に臨時の部署を設けた
ハンブルグ郊外でF4戦術機の完熟訓練をしていた篁祐唯は、急遽領事館へ呼ばれた
彼を待っていたのは、夫人が帝都城に持ち込んだ文書に対しての尋問であった
強化装備を脱ぎ、勤務服に着替えて領事館に向かう
幌が張られた四人乗りの小型トラック
米軍軍用車『ウィリス M38』の影響を強く受け、『ジープ』其の物であった
揺れる車中で、後部座席に座る綾峰に問うた
「どの様な用件で呼び出されたのか……、皆目見当が付きません」
軍刀を杖の様にして腰かけ、軍帽を目深に被った綾峰
目を見開き、彼の方を向く
「俺が判る事は、ただ事ではないと言う事だよ」
そう告げると、再び目を瞑った
彼は前を振り向くと、背凭れに身を預けた
アウトバーンを飛ばしてきた彼等はすぐさま領事室に呼ばれる
敬礼を終えた後、総領事が腰かけるよう促してきた
直ぐには帰れそうにはない事を悟った彼は、ゆっくり腰かけた
出された茶と、茶菓子を勧められると一礼をして軽く口に含む
総領事は、懐中より紙巻きたばこを出すと火を点けた
紫煙を燻らせながら、彼に尋ねた
「奥方にドイツ土産を送ったのは確かかね」
彼は、総領事の顔を見ながら話す
「小官が、家内に家苞を送ったのは事実です。
ですが、何故その様な事をお尋ねになられるのですか……」
「何を……」
右手で髪を撫でる
「『ハリボー』というクマのキャンデーとテディベアのぬいぐるみですよ。
シュタイフ社のクマのぬいぐるみは本場ですから……」
領事の顔から笑みがこぼれる
「初々しい夫婦だね、実に結構」
悠々
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